拉致され目覚めると、そこは熱帯林の奥地にある謎の学校だった!?――松岡圭祐『高校事変III』

文芸・カルチャー

公開日:2019/9/21

『高校事変III』(松岡圭祐/KADOKAWA)

 松岡圭祐氏が生み出した“史上最恐の女子高生ダークヒロイン”をあなたはご存じだろうか。それは、「高校事変」シリーズに登場する優莉結衣。松岡圭祐氏というと、『万能鑑定士Q』などの「人の死なないミステリ」に登場するヒロインをイメージする人も多いだろうが、そのイメージでこのシリーズにふれると、痛い目を見るだろう。

 類稀なる身体能力と、戦闘の知識。正義のためなら、人を殺すことも厭わない。優莉結衣のことは、「凶悪」だとか「凶暴」だとかと表現するのが適切なのかもしれない。だけれども、そんなダークヒロインの姿に胸がスカッとさせられ、時に、その孤独な姿に心打たれるのは、なぜだろう。そんな、前代未聞のヒロイン・優莉結衣が大活躍するシリーズ最新刊『高校事変III』(KADOKAWA)が発売される。

 優莉結衣は、平成最大のテロ事件を起こし死刑になった男の次女だ。事件当時、彼女は9歳で犯罪集団と関わりがあった証拠はないが、17歳になった今でも、常に警察や公安から目をつけられている。だが、事実、目をつけられて当然。実は、結衣は、幼い頃、父親から戦闘に必要な知識を徹底的に叩き込まれていたのだ。戦闘の英才教育を受けた彼女は第1巻『高校事変』で、高校に侵入してきたテロリストを制圧。第2巻『高校事変II』では、同じ養護施設に暮らす奈々未が行方不明になった事件を見事に解決した。だが、今回発売された第3巻『高校事変III』で彼女の前に立ちはだかるのは、今までの比にならないほど、戦闘能力の高い敵。元・軍人たちが相手だ。

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 物語は、結衣のもとに、少年犯罪歴や非行傾向などがある問題児のための全寮制の矯正施設・塚越学園のトップが訪ねてくることに始まる。結衣は転入を薦められるが、見学に出発した時、突如として謎の武装集団の襲撃に遭ってしまった。戦闘の途中で記憶はプツリと途切れ、ふたたび目覚めた時には、熱帯林の奥地にある奇妙な学校村落に身を置いていた。そこは、日本から来た少年少女ら700人が生活しながら通学する、要塞化された学校・チュオニアン。どの生徒も、塚越学園の入学前に、何者かに拉致され、この学校へと収容されたのだという。数メートルおきに監視カメラが設置され、どこにいても会話は筒抜け。元ミャンマー兵たちが生徒たちを管理し、銃やスタンガンを使うことは当たり前。校則をやぶり、懲罰点がたまると、生徒は処刑されるのだという。

 一番厄介なのは、チュオニアンの学園長・檜蘇の存在だ。檜蘇は、結衣が大量殺人を厭わない人物であることは認識しながらも、他人を見殺しにしないことを見抜き、結衣を「規則を破れば、代わりに他の生徒を殺す」と脅している。いわば、700人を人質に取られた状態で、結衣はどんな行動に出るのか。

「ひいじいさんにきいたんだけどさも戦争前はみんな学校に通ってるだけの少年にすぎなかったって。それが子供まで戦争に駆りだされるようになったら、あっという間に腹をくくって、やるべきことをおぼえて、的確に行動できるようになった。俺たちも同じだよ。環境の変化ってやつは大きい」

 特殊な環境下に置かれているはずの少年・少女たちがこの状況に馴染んでいってしまうことが恐ろしい。結衣は、生徒たち全員をここから救い出すことができるのか。ダークヒロインの新たな戦いから目が離せない。

文=アサトーミナミ