絶海の孤島で起こった異変。死を呼ぶのは流人の呪いか、それとも……。荻原浩のダークサイドが炸裂するサスペンス小説

文芸・カルチャー

2019/9/28

『楽園の真下』(荻原浩/文藝春秋)

 本土から遠く離れた絶海の孤島。飛行場はなく、唯一の交通手段である船は週に一度しか発着しない。だが、だからこそ残った豊かな自然と美しい海が観光客の人気を集める。

 そんな「志手島」が、荻原浩さんの新刊『楽園の真下』(文藝春秋)の舞台だ。

 もちろん架空の島である。であるのだが、「豊富な固有種が外来種によって危機に瀕する自然保護区がある」「昔は流罪の島だった」「今は若者の移住者が多い」などなど、現実のあの島この島を想起させる設定にニヤリとしているうちに、事件は始まる。

 実際にいそうでいない「20センチ近い大カマキリ」を島まで探しに出かける羽目になるのは、フリーライターの藤間だ。かつては将来を嘱望された時期もあったが、今は雑多な単発仕事を請け負って口に糊するだけの冴えない中年男で、近頃ライティングを引き受けた『びっくりな動物大図鑑』にしても図書館で借りた本とネットの情報だけで書きあげるつもりだった。

 だが、編集者が何気なく発した「志手島」の一言が、藤間の心を揺すぶった。

 藤間は、以前から目をつけていたのだ。カマキリに、ではない。島で起こっている不可解な連続自殺事件に、だ。

 島では2年半の間に14人が自ら命を絶っていた。年間の自殺者が2万を超える日本においてはたかが14人、かもしれない。しかし、人口が3000にも満たない島で起こっているとなると少々異常な数だ。しかも、死因はすべて水死。場所も涙人湖という湖とその周辺に限られていた。誰もが首をかしげる特異性に、ネットなどでは「死出島」と揶揄する声もあがっていたが、事件を思わせる不審点も見つからないため、公な調査はされていない。

 だが、藤間の直感は見過ごせない「何か」を感じとっていた。

 失われかけていたライター魂に、火が着いた。

 藤間は単身島に乗り込むことを決意する。建前上はカマキリの現地取材。でも本心は連続自殺事件の調査、のはずだったが……。

 荻原さんといえば、心温まる人情物語が得意な作家というイメージがあるかもしれない。だが、実はサスペンスやホラーに類する小説の名手でもあるのだ。第144回直木賞候補作になった『砂の王国』は新宗教を巡る息の詰まるような心理サスペンスだし、短篇集『押入れのちよ』には背筋も凍るホラー小説が収められている。そうした、いわば荻原作品のダークサイドともいえる作品群の先端に本作は位置する。

 テンポよく進んでいくストーリーの中、矢継ぎ早に示されていく謎の数々。

 正体不明の巨大カマキリ、自死を誘う涙人湖、囁かれる流人の祟り、余所者を拒絶する深夜のバー、小動物の惨殺死体、そして続々発生する不審死……。

 まったく繋がりがなさそうな個々の出来事は、不気味な「一本の筋」によって繋がっていく。その「筋」の正体を知った時、あなたの背筋を走るゾクゾクは謎が解けた喜びか、それとも肌も粟立つ嫌悪感か。

 荒唐無稽に見える展開も、背景となる科学的根拠には少しの嘘もない。つまり、本作はどこまでもリアルを前提とした、本格サスペンスなのだ。生き残りを懸けた閉所バトル好き、もしくは「生物相」「Rapid Evolution」あたりの用語にビビッとくるあなたなら必読の一冊である。

文=門賀美央子