親の老いが受け入れられないあなたへ

文芸・カルチャー

2019/9/27

『あおいアヒル』(リリア:作、前田まゆみ:訳/主婦の友社)

 いつまでも変わらないでほしい家族との大切な時間。けれど、親は必ず老いていくもの。それを受け止めるとき、自分は今と変わらぬ愛情をそそぐことができるでしょうか。

『あおいアヒル』(リリア:作、前田まゆみ:訳/主婦の友社)は、ブエノスアイレスで生まれ育った著者のリリアさんが、祖母の認知症を見守る両親の姿を見て描いた絵本です。ブルーとグレーを基調にしたやさしいテイストで、登場するキャラクターたちの心情がかわいくも切なく描かれています。

「母さんも年をとるんだね」「祖母の認知症がひどかったころに出会っていたら接し方が変わっていたかも」などの反響を得ている、本書の魅力に迫ってみました。

■世界でいちばん大好き。こんどは ぼくが まもるから…

 あおいアヒルは、あるとき、“あおい池”でワニの赤ちゃんと出会いました。ワニのお母さんは見当たりません。あおいアヒルは、離れると泣いてしまうワニの赤ちゃんと一緒にすごすことにしました。

 毎日からだを洗い、ワニをおなかにのせて池の上でプカプカ。あおいアヒルは「わたし、世界でいちばん幸せなママだわ」と実感します。そんな穏やかな日々のなか、ワニは立派にたくましく成長しました。

 いつからか、あおいアヒルは物事を忘れるようになりました。ワニを拒絶し、やがて自分の足では歩けなくなります。

 もう楽しく遊ぶことも語りあうこともできません。ところがワニは、アヒルが自分のことを忘れてしまっても、お互いを想う深い愛情は変わらないと確信していました。そして、ワニはアヒルにいいます。「こんどは ぼくが まもるから」と。

■深い愛情があるから、忘れられてもやさしくしたい

「世界でいちばん大好き」と、あおいアヒルを慕うワニは、拒絶され、楽しい会話ができなくなり、つらかったはず。ところが、ワニがつらい表情を見せることは一度もありません。なぜでしょうか。

 ワニは歩けなくなったアヒルを、はじめて出会った“あおい池”に連れていきます。それは、お互いに大好きだと感じあった場所。ワニは、大きく成長したからだの上にアヒルをのせて、プカプカと浮かびました。以前、アヒルがそうしてくれたのと同じように。この場面でのふたりの幸せそうな表情が忘れられません。

 ワニはそれまですごした時間から、アヒルがどうしたら幸せなのかを知っているし、お互いに大好きなこともわかっています。だからこそ、たとえ忘れられても相手の幸せを大事にしたい、そんな気持ちがワニを突き動かしたのだとしたら…切なくて涙が溢れそうです。

■気持ちがぶれそうになったとき、いつも開きたい1冊

 著者は、認知症の祖母を見守る家庭のなかで、将来の両親の姿を思い浮かべ、自分にできることを考えたときに「ワニのように強くやさしく見守りたい」と感じたそう。この本に描かれていることは、著者が両親の幸せを精一杯に考えて出した答えなのです。

 その幸せな気持ちとは、きっと著者が両親から受け取っていたもの。自分もまた、親から受け継いだ愛情を、親に返していくことができるのでしょうか。もし自分の気持ちがぶれてしまいそうになったときには、いつでもこの本を開きたいと感じました。

 人は必ず老いていくもの。いつか訪れるその瞬間をやさしい気持ちで迎えるための、心構えにもなる1冊です。

文=吉田有希