マンガと活字のいいとこどりで新鮮な読み心地! 弱虫の少年がペダルを熱く回す! 大ヒット自転車マンガ『弱虫ペダル』を完全ノベライズ!

文芸・カルチャー

2019/10/15

『小説 弱虫ペダル』(渡辺航:原作、輔老心:ノベライズ/岩崎書店)

 累計発行部数2500万部超え! 自転車マンガの金字塔、『弱虫ペダル』(渡辺航/秋田書店)の小説版1、2巻が、2019年10月に同時刊行された。

『小説 弱虫ペダル』(輔老心:ノベライズ/岩崎書店)は、渡辺航氏の原作マンガに忠実に描かれている。だが本作は単にマンガを活字に変換しただけではないのだ。

 言ってみれば、マンガと活字のいいとこどり。新しい形のノベライズに仕上がっているのだ。本レビューでは、マンガのもつ迫力、活字による詳細なキャラクター心理と背景描写、これらが存分に楽しめるハイブリッドさを詳しく解説していく。

 原作のマンガ「弱ペダ」は長期連載であるため、途中から入りにくかった方、自分の子供に活字を読ませたい方、そしてもちろん長年のファンに、ぜひ読んでみてもらいたい。

■「ちぎれるまで回せ」弱虫が熱くペダルを漕ぐロードレース物語!

 まずは「弱ペダ」初心者の方のために、物語を振り返ってみよう。

 まず主人公の小野田坂道(おのださかみち)。アニメの聖地、秋葉原に通うことが楽しみの孤独な少年は、高校ではアニメ研究会に入部し、仲間をつくるつもりだった。

 地味で目立たず運動も苦手な坂道は、そもそも運動部や体育会系のノリが大嫌いだった。にもかかわらず、あることがきっかけで自転車とロードレースにのめりこんでいく。

「ちぎれるまで回せ」「たおれても進め」

 一度、自転車にまたがれば、別人のように熱く燃え、ペダルを踏み、回す。坂道は、いつしか能力を目覚めさせ、勝つために、努力し、どんどん成長していく。そして、ひとりだった坂道には、レースを一緒に走る仲間ができる。

『小説 弱虫ペダル』は、原作と同じく坂道が高校に入学し、そこで中学トップクラスのサイクルレーサーだった今泉俊輔(いまいずみしゅんすけ)と出会うところから始まる。今泉は坂道の驚くべき脚力に驚愕し、勝負を挑んでくる。

 同級生の寒咲幹(かんざきみき)や、秋葉原で出会った鳴子章吉(なるこしょうきち)も、人知れず鍛えられた坂道の才能に気づく。

 実は坂道は、家から往復90kmある秋葉原へ“小学4年生のとき”から毎週かかさず自転車で通っていた。しかも重たいママチャリで。これが坂道の能力の秘密だった。

 今泉、鳴子と走ったことで“移動ではない”自転車の魅力に気づいた坂道は、高校の自転車競技部に入部する。彼ら3人は1年生対抗レースで相まみえることになるのだ。

■新感覚のハイブリッドノベライズ! マンガのコマと文章が絶妙に補完し合う!

 本書を読んでいくと、渡辺航氏の原作のカットがふんだんに挿⼊され、しかも漫画のコマ風にレイアウトされていることに気づく。ときには原作カットが大きなサイズで使われている。これがまさにマンガの大ゴマのように、読んでいく流れの中でドンッ!と目に飛び込んでくるように計算されている。

 文章で解説してある状況、表情、動きなどのシーンを、絵でタイミングよく見せてくれるため、文章量が決して少ないわけではないのに、マンガ感覚でぐんぐん読み進めてしまうのだ。

 本稿のライターは原作を読んでいるため、あ、ここでこのコマの挿入は効果的だな、迫力あるシチュエーションを一見してわからせようとしているな、などと感心した。『小説 弱虫ペダル』は、元々あるマンガのカットのもつ説得力と、詳細に書かれた文章の相乗効果で、「弱ペダ」の魅力であるスピード感、躍動感、熱さがそのまま楽しめる作品に仕上がっている。

 もちろん活字ならではの醍醐味もある。多少構成を変えてはあるものの、原作の熱いセリフはほぼそのままだ。この名セリフの数々は文章だけで読むと、より頭に残り、その重みが増すように感じられた。

 またストーリーの背景となるエピソードや、登場⼈物それぞれの気持ち、坂道以外の⾃転⾞競技部の仲間、クラスメート、応援する⼈とされる⼈、さまざまな関係性も深く描写されている。

 文章とマンガのコマが絶妙に補完し合うこと。文章による説明が非常にわかりやすいこと。この2点によりストーリーを知らない方もすらすらと読むことができ、物語に没入していける。

「弱ペダ」を読んだことのない大人、そして読書が苦手な子どもに、特におすすめしたい。

■児童文学を超えたエンタメ読み物! ドラマの始まりを見届けよ!

 本書を出版したのは『モチモチの木』「ペネロペ」シリーズなど、児童書を出版している岩崎書店。そのため『小説 弱虫ペダル』は小中学生向けの児童文庫として立ち上げた企画だった。しかし小学生から大人まで、長年のファンから初めての読者まで、幅広い層が楽しめるように路線を変更。マンガ×小説のハイブリッドな表現をもった、エンターテインメント性の高い読み物に仕上がった。連載開始当初からの「弱ペダ」ファンだったという本書を企画した社員も、納得の出来ばえだそうである。

『小説 弱虫ペダル』1冊には、およそマンガ2冊分のエピソードが盛り込まれている。同時刊行の小説版1巻2巻は、坂道が自転車競技の魅力に気づき、その才能を覚醒させるまでが描かれる。もちろん続刊も予定されている。

 TVアニメや舞台化もされ、現在も人気連載中の「弱ペダ」。このたび小説が満を持して登場した。この機会に坂道の“伝説の自転車人生”のスタートから、読み返し、あるいは読んでみてはいかがだろうか?

文=古林恭