「殺すぞ」…脅迫にも怯まず世界を動かそうとする気候活動家・グレタ。少女を支える特異な才能と家族の存在

社会

2019/10/9

『グレタ たったひとりのストライキ』(マレーナ&ベアタ・エルンマン、グレタ&スヴァンテ・トゥーンベリ:著、羽根由:訳/海と月社)

 世界中で、10代の若者たちが声をあげている。気候変動の原因となる二酸化炭素他の温室効果ガスの排出を止め、人類の明るい未来を確保しよう、と。

 世界のポップアイコン、ビリー・アイリッシュは現在17歳。自身が作詞した「all the good girls go to Hell」で、「大洪水が始まったら最後、天国はもうどこにも見当たらない」と、独特のささやくような歌声で気候変動危機への注意喚起をうながす。

 そして現在16歳で、国連事務総長をもうならせるような行動をとった少女がいる。2018年8月20日より3週間、スウェーデンの国会議事堂近くに座り込み、「温室効果ガス削減政策の即時実行」を政府に求めて登校を拒否する「学校ストライキ」をひとり自らの意志で決行した、グレタ・トゥーンベリさん(以下、グレタ)だ。

 本書『グレタ たったひとりのストライキ』(マレーナ&ベアタ・エルンマン、グレタ&スヴァンテ・トゥーンベリ:著、羽根由:訳/海と月社)の主人公である。

■11歳の時に学校で見た、プラゴミの海洋汚染動画がきっかけに

 本書は、グレタの母親でオペラ歌手のマレーナ・エルンマン氏が主筆者となり、家族4人(マレーナ:母、スヴァンテ:父、グレタ、ベアタ:妹)の物語を柱として、グレタが気候変動危機を訴える活動を始めた経緯や、エコ生活に対する家族の取り組み、これまでの主要な世界会議(TED、ダボス会議、国連など)でのグレタの発言の全文掲載などがまとめられている。

 11歳の時に学校で海洋のプラスチック汚染に関する動画を見て以来、気候変動を含む環境問題の解決が、グレタの最大にして即急の課題になったという。そして16歳までの数年間、科学者ら専門家の意見を傾聴し、ネット情報や書籍を読み漁り、さまざまな知識を吸収していく。

 そして彼女が気づいたのが、「行動すること」の重要性だった。しかも、「今すぐに」。

私たちの家が燃えています。(中略)IPCCによると、私たちの失敗を取り消せる時間はあと12年もないそうです。(中略)このダボス会議のような場では、みなサクセス・ストーリーを語りたがります。けれどもその金銭的成功には想像を絶する対価が伴いました。気候変動について、私たちは失敗を認めなければなりません。(後略)
(2019年1月23日「世界経済フォーラム(通称ダボス会議)」でのグレタのスピーチ。本書掲載内容より引用抜粋。IPCC=国連気候変動に関する政府間パネル)

■「殺すぞ」という脅迫にも屈しなかった理由は?

 グレタがこうした強い言葉を発信し、世界会議の場で意見できるようになったのは、「学校ストライキ」のニュースが世界中に波紋を広げ、その主張がアントニオ・グテレス国連事務総長の支持を得るまでに至ったからだ。

 波紋が広がるスピードの速さやその内容、そして抗議活動をすることで、彼女の身近にいる家族はどういう事態に直面するのか、本書はその詳細にも触れる。

 賛同者がいれば反論者、誹謗中傷者もいる。「殺す」という脅迫さえも。「学校を休むなんて!」という意見も当然ながら殺到した。

 しかし、グレタが国会前に座り込んだ理由はいたって明快。事態は緊急を要するからだ。学生だろうと社会人だろうと、「このこと(気候変動問題の解決)以外に取り組むべき重要な“今”すべきことって、他にいったい何があるというの?」と。

 緊急事態の前では、グレタ自身が長年抱えていた困難な課題さえ克服する。

 彼女にはアスペルガー症候群、自閉症といった「授かりもの(グレタ自身による表現)」がいくつかある。両親によれば、ストライキを起こす前までのグレタからは、見知らぬ人々と会話し、インタビューに答える姿などは想像すらできなかったという。

■頭脳明晰なゆえに見えてしまう、人類と行く末の悲惨な姿

 そんな変化を「私は話すべきことしか人と話さない。気候変動は“話すべきこと”だから」と明かす。その姿勢を貫く討論では大人を論破さえするグレタは、誤解されやすい。16歳の少女なのに、科学者顔負けの専門的な知識やデータが口からスラスラ出てくる。そのため、「背後にだれかいるのでは、組織が操っているんだろう」などと揶揄されがちだ。

 しかし本書を読むと、これも「授かりもの」の恩恵だとわかる。グレタにはデータを一瞬で記憶する映像記憶など、優れた記憶能力がある。だから両親が飛行機に乗って帰ってくれば、「パパたちは2.7トンの二酸化炭素を排出した。その数値はセネガルの5人分の年間排出量と同じなんだよ」と、両親相手であろうと反エコな行動には即座にくぎを刺す。

 言動がときに感情的で攻撃的だとも批判される。これも頭脳の明晰さゆえだ。いろんなデータが集積されることで、グレタは他者には見えないもの──地球と人類のリアルな未来の姿──が見えてしまうため、言動も真剣そのものになるのだ。

 今の10代は2030年以降に20代・30代となる。人生がもっとも華やぐゴールデンエイジだ。しかしグレタは、「みんなが今と同じ生活をするなら、私たちにその時代がやって来るとは思えない」と言い、あらゆる世代が「自分にできること」を探し、即実行する必要があると訴える。その行動のヒントをぜひ、本書から学んでほしい。

 彼女が語るように「家が燃えている」。そのくらいの危機感が必要なのだ。

文=町田光