ひとりの少女の成長と、世界をゆるがす愛と宿命の物語――ここに開幕!

文芸・カルチャー

公開日:2019/10/25

『メイデーア転生物語 1 この世界で一番悪い魔女 (富士見L文庫)』(友麻碧/KADOKAWA)

 辺境貴族の令嬢マキアは、〈世界で一番悪い魔女〉と悪名高い“紅の魔女”の末裔。騎士の少年トールと共に成長し、分かち難い絆で結ばれるが、トールはある使命によって王都へ召喚されてしまう。再び彼と会うためにマキアは最難関の魔法学校を目指す――。

 8月に最終巻が刊行され大団円を迎えた「かくりよの宿飯」シリーズ、9月に最新刊が発売され、こちらも大好評の「浅草鬼嫁日記」シリーズ(共に富士見L文庫)。“あやかしファンタジー”ジャンルで不動の人気を誇る友麻碧さんの作品が〈3ヶ月連続刊行〉されており、そのトリを飾る新作がいよいよ始動する。これまでの“あやかし”とは異なる、“転生ファンタジー”だ。

 舞台は魔法の息づく世界“メイデーア”。魔法が大好きな少女マキアは11歳の誕生日に、自分を凌ぐ魔法の才能を持つ奴隷の少年と出逢い、彼に〈トール〉という名を贈る。ふたりの間には主人とも従者とも、淡い初恋ともつかない特別な絆が育まれるが、絶対的な運命によって引き離されてしまう。

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 それはメイデーアに伝わる救世主伝説だった。異世界からやってきた“救世主の少女”を助ける“守護者”の証の刻印が、トールの胸に現れたのだ。

 自分の大好きな人が、自分以外の女の子を守る運命に選ばれる。

 恋する乙女にとってこれほどヘヴィな状況はない。

 しかし友麻作品のヒロインは、逆境にはへこたれない。「かくりよの宿飯」の葵然り、「浅草鬼嫁日記」の“最強の鬼嫁”真紀然り、彼女たちはどんなに困難な壁が目の前に立ちふさがろうとも、前に進むことを諦めない。

 本作の主人公、マキアもまた然りだ。

 王宮の騎士団に入団し、自分よりもはるか雲の上の存在となったトールと再会するために努力を惜しまない。猛勉強の末に最高峰の魔法学校に入学し、さらに王宮への出入りが許される特待生になるべく奮闘する。

 個性豊かな学友たちと出会い、様々な魔法を学び、郊外実習やライバルお嬢さまとの攻防のくだりは学園ものの楽しさに充ち満ちている。またメイデーアにおける魔法の概念や仕組み、生活の中に魔法が当たり前のものとして溶け込んでいる日常描写の丹念さ、マキアが作る美味しそうな魔法料理の数々といった、物語を支えるディティールの豊かさがファンタジーにリアリティを添えている。

 クライマックスの王宮の舞踏会で、マキアはとうとうトールとの再会を叶える。しかし彼の傍らには、救世主の少女アイリがいた。実はこの3人、前世では日本の高校生で、しかも三角関係にあったという複雑な因縁があるのだった……。

 本作の原型は作者がデビュー以前に書きあたためていたもので、いわば小説家・友麻碧の原点ともいえる作品だ。原点であると同時に最新作であり、すでにコミカライズが決定している他、友麻作品の感想を大募集するTwitterキャンペーンが現在開催されている。

 ひとりの少女の成長と、世界をゆるがす愛と宿命の物語は、今はじまったばかり。第一巻からすでにして壮大な世界観が展開され、傑作の予感がみなぎっている。

【友麻碧作品3ヶ月連続刊行キャンペーン】特設サイト

文=皆川ちか