「カルト村」で育った少女が大人になり、手にしたふつうの幸せとは? 高田かや最新作『うまうまニッポン!食いだおれ二人旅』

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更新日:2019/10/31

『うまうまニッポン!食いだおれ二人旅』(高田かや/文藝春秋)

 厳しい体罰や情報統制が敷かれ、まるで現代の日本とは思えない「カルト村」で生まれ育った作家・高田かやさん。これまでに『カルト村で生まれました。』『さよなら、カルト村。』(ともに文藝春秋)の2作品で、その実態を赤裸々に描いてきた。

 そんな高田さんが最新作を発表! 気になるテーマは、なんと「食いだおれ旅」だ。

『うまうまニッポン!食いだおれ二人旅』(文藝春秋)とのタイトルで、全国各地を旅する様子を描いた本作。そもそも高田さんが作家になったのも、「もし自由に仕事を選べるなら、旅や食べ物メインのコミックエッセイを描く仕事がしたい」という想いが出発点だったという。しかし、旅やグルメをテーマにした作品は世にあふれている。そこで高田さんが選んだのは、「まず自分自身を知ってもらう」ということ。そうして、前述の「カルト村」シリーズが誕生したのである。

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 さて、念願叶ってグルメ旅をテーマにした作品を描いた高田さん。その喜びは筆致にも滲んでおり、どのページを開いても、高田さんが心の底から旅を楽しみ、それを綴っていることが伝わってくる。

 訪れるのは、北は青森県、南は佐賀県と、全国津々浦々。5月の青森県では名物の「トゲクリガニ」を購入し、旅館で自炊をして楽しむ。7月には富山県にある「ヒスイ海岸」でヒスイの原石探しに夢中になり、10月の岐阜県では栗や舞茸、松茸など秋の味覚に舌鼓を打つ。その描写を見ていて思うのは、高田さんが人生を目一杯謳歌している、ということだ。

 仲良しの夫・ふさおさんとともに全国をめぐる高田さんは、どんな場所も少女のように楽しんでみせる。その背景にあるのは、やはり「カルト村」での抑圧ではないだろうか。子どもらしい経験をさせてもらえず、常に我慢ばかりを強いられてきた幼少期の高田さん。けれど、こうして幸せな日常を送ることができている高田さんの姿を見ていると、どんなにつらい過去があったとしても、人は幸せを手にすることができるのだと感じられる。そして、そんな姿を目にすることで、こちらもハッピーになれるのだ。

 本作に登場する観光スポットや旅館、飲食店などは、もちろんすべて実在するもの。巻末にはそれらがリスト化されているので、高田さんたちの旅が気になった人は、それをなぞることも可能。コミックエッセイでありながらも、旅のガイドブックとしても役立てることができる。

「カルト村」で壮絶な体験をした少女が大人になり、一体どんな幸せを手にしたのか。ぜひ高田さんのデビュー作から順を追って読んでもらえると、その変遷に触れることができるはずだ。

文=五十嵐 大

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