壇蜜初の小説集! “人命救助のようなセックスをした”死んだ夫の遺骨と暮らす未亡人を描く『はんぶんのユウジと』

文芸・カルチャー

2019/11/20

『はんぶんのユウジと』(壇蜜/文藝春秋)

 エロティックさを売りにした女性タレントは、一般的にあまり女性受けがよくない。しかし、壇蜜さんだけは別だ。トレードマークの長い黒髪に妖艶な雰囲気を纏っている彼女を初めてテレビのトーク番組で見た時、すごい人が現れたなと思った。エロティックな言葉をいくら口にしても彼女は下品に見えなかったからだ。言葉の端々から教養と独特の陰りが見え隠れする人だと思った。

 ご存じの方も多いと思うが、壇蜜さんは異色の経歴を持つ。専門学校で調理師免許を取得し、和菓子工場に勤務。その後、銀座クラブのホステスになったが、知人の死をきっかけに冠婚葬祭の専門学校へ通学し、遺体衛生保全士資格を取得。

 テレビ番組でエロチシズムを感じさせるトークをする一方、最近では『壇蜜日記』(文藝春秋)などのエッセイも執筆。自虐的でどこか陰のある独特の文才で、読者を魅了している。

 そして、この度、初の小説集『はんぶんのユウジと』(文藝春秋)を発刊。本作は『文學界』に連載されていた作品に3つの描き下ろし作品を加えたもの。作中には壇蜜さんらしい絶妙な毒とユーモアがちりばめられている。

■結婚して3ヶ月で夫が突然死…

 全5章からなる本作は「ユウジ」というひとりの男性の死を軸に、視点人物を変えながらストーリーが進んでいく。第1章で主人公になっているのは、ユウジの妻・イオリ。イオリは大学を出て中堅企業に就職したものの半年で退職。以降、契約社員として中小企業の事務職に就いていた。出来のいい姉を持ち、理想のレールに自分を乗せたがる両親のもとで育ったイオリは周囲が求める「正解な私」を模索しながらも、冷めた人生を送ってきた。

 夫・ユウジとも情熱的な大恋愛の末に結ばれたのではなく、親が見合い話を持ってきたことがきっかけ。「絶対に無理」という相手ではなかったため、見合いの延長としてデートを重ね、両家の面子を保つための儀式として結婚式を行った。初めての性行為もイオリにとっては“しなければいけない行為”のひとつ。女慣れしていないユウジを不自然にならないようリードし、人命救助のようなセックスをした。

 親の勧めで見合いをした2人は似た者同士。自分で物事を決められないところも流れに身を任せてしまう癖があるところも、親の期待を感じることが少なかったところも…。

 そんな夫が結婚して3ヶ月で、突然死んだ。周囲は夫を亡くしたイオリを、平凡とはかけ離れた状況にいる「哀れな女」として扱う。しかし、周りが思っているよりもイオリは“日常”を過ごせていた。夫が死んだというのに食事もでき、眠れてもいる自分…。心からユウジの死を悼んでいる義理の両親や自分の両親を前にすると「悲しむ未亡人」の姿を求められているような気持ちになり、誰に対してか分からない「言い訳」をしたくなってしまう。

 そんな複雑な心境など知らない義理の両親はイオリに「息子の骨を半分持っていかないか」と言う。こうしてイオリはその日から、“はんぶんのユウジ”と暮らすことになった。

 骨壺に入っていた“はんぶんのユウジ”は焦げ臭い奇妙な塊。そんなユウジをイオリがどう扱っていくのかを見ていると、自分の中の死生観が揺らぐ。蜜さんは自身の人生経験を活かし、「死」という事実を現実的に紡いでいる。死は特別なことのように感動的、悲劇的に描写されやすいが、壇蜜さんの描写に触れると人の死は、本当は日常のすぐ近くにあって平凡とも繋がっているのかもしれないとも思わされるのだ。

 なお、本作は自分の未熟さにギクっとさせられる仕上がりにもなっている。登場人物たちが見せる「どうしようもない姿」に自分が重なり、胸が熱くなる。「この世界で上手く生きることができない」――そう思っている方に寄り添い、背中を押してくれる温かさが本作にはあった。

文=古川諭香