プロローグで、探偵(彼女)は死ぬ。新感覚のラブコメ×ミステリー×SFファンタジー小説!

文芸・カルチャー

2019/12/5

『探偵はもう、死んでいる』(二語十/KADOKAWA)

 ライトノベルでミステリー。そう言われて浮かぶひとつが、米澤穂信の<古典部>シリーズだろう。SFやファンタミステリーが多かったライトノベルにあって、学園を舞台にして起こる事件を解き明かす物語は珍しかったが、今では学園ミステリーというカテゴリーのまさしく“古典”となっていて、男子高校生が先輩の女子高生と謎解きに挑む酒井田寛太郎の『ジャナ研の憂鬱な事件簿』シリーズのような後継作品を生み出している。

 もうひとつのカテゴリーがあるとしたら、三上延による『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズを代表例にしたお仕事ミステリーが挙がりそう。この作品の大ヒットをきっかけに、コーヒーショップや映画館や楽器店といったお店を舞台に、それぞれのお仕事に関連した知見が発揮され、謎が解き明かされるミステリーが多く描かれるようになった。アニメになる辻村七子の『宝石商リチャード氏の謎鑑定』シリーズも、この流れに沿った作品だ。

 警察の中に作られた特殊な組織が難事件に挑むもの。大学教授が学識を活かして猟奇な事件を解決するもの。そんなミステリーもライトノベルやそこから派生したキャラクターノベルのレーベルから刊行されている。ファンタジー世界ならではの超常的な設定が、謎解きに絡むようなミステリーもある。西尾維新や舞城王太郎といったあたりは、本格や文芸に留まらず、強烈なキャラクター性でライトノベルに影響を与えてフォロワーを生みだしている。

 ライトノベルのミステリーは、だから決してマイナーなジャンルではないと言いたいが、小説投稿サイトで人気の異世界転生・転移ものが人気となっている数多く刊行される中で、メインを張っているとは言いがたい。そうした状況に、「探偵」というキーワードをタイトルに掲げた上に、学園ミステリーやお仕事ミステリーといったカテゴリーから外れた作品で勝負したという意味で、第十五回MF文庫Jライトノベル新人賞の《最優秀賞》を受賞した二語十の『探偵はもう、死んでいる』は挑戦的な一冊だ。

 タイトルからして常識から外れている。ミステリーでは主人公となるべき探偵というキャラクターが、もう死んでいるというのだから。プロローグ。飛行機の中で「お客様の中に、探偵の方はいらっしゃいませんか?」とキャビンアテンダントが呼びかける。巻き込まれ体質から白い粉の取引現場を目撃したり、殺人現場に居合わせたりして来た君塚君彦という中学二年生の少年が、関わりたくないと目を瞑った瞬間。隣の席に座っていた美少女が「はい、私は探偵です」と立ち上がった。

 探偵、死んでいないじゃないかと思わせたのも束の間、君塚は自分を助手に指名して飛行機を乗っ取っていた《人造人間》を倒し、そのまま三年間にわたって彼を引っ張り回したシエスタという名の美少女探偵と、プロローグの終わりで死に別れる。そして一年後。高校に通っていた君塚の前に、夏凪渚という少女が立った瞬間から、抜け殻にようになっていた彼の日常は一変し、渚とともに《人造人間》を作り世界を脅かす秘密組織《SPES》との戦いへと舞い戻っていく。

 とつぜん目の前に現れ、君塚をシエスタと過ごした時のような日々へと連れ帰った渚が、いったいどういう存在だったのかは本編を読んでのお楽しみ。ひとつ言えるのは、死んでいても探偵は、物語の中心にしっかり存在しているということだ。

 シエスタを師と仰いでいたシャーロット・有坂・アンダーソンという少女は、詐欺事件や動物捜しといった事件は解決しても、大事件には挑もうとしない君塚を横目に、自分はシエスタのような名探偵であろうと努力する。渚は、病弱だった自分にもたらされた幸運が招いた事態を、ずっと得られなかった人生の軸として捉え羽ばたこうとする。そして君塚は、渚との出会いによって再びもたらされた助手としての役割を果たし、シエスタの命を奪った《SPES》に再び挑もうとする。

 傍若無人な美少女探偵が、冴えない助手とともに世界を駆け回って大活躍する冒険ストーリーでも面白くなっただろう。むしろその方が、ライトノベルの読者層にはマッチしたかもしれないところを、作者は主人公たる探偵を真っ先に退場させてしまった。結果、誰かを失ってしまった者、なにかが欠けている者たちが集まり、協力しながら成長していく青春ストーリーが生まれた。

 ミステリーでありながらラブコメでもあって、SFファンタジーでもあり青春ものでもあるという、ジャンル無双の面白さを持った『探偵はもう、死んでいる』。欲を言うなら、共に行動した三年の間にシエスタと君塚が遭遇した難事件の数々と、そこで繰り出された名推理の数々をもっと読みたかった。それでこそシエスタというキャラクターの凄さが分かるというものだが、残念ながら探偵はもう、死んでいる。だったら彼女の凄さが、君塚や渚、シャルがこれから遭遇する事件で発揮されて欲しいとも思う。

 「探偵の方はいらっしゃいませんか?」。そう呼べばシエスタは答えてくれるのか? 期待して待ちたい。

文=タニグチリウイチ