「1日1万歩」に実は効果がない!? 体力向上、生活習慣病改善に「インターバル速歩」がいい理由

健康・美容

2019/12/6

『ウォーキングの科学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方』(能勢 博/講談社)

「なんだか最近、お腹が出てきたような……」
「健康診断で食べ過ぎと運動不足を指摘され……」

 そんな理由から、たまに目的地より一駅前で降りて歩いてみたり、なんて人は少なくないだろう。運動を始めるにも、なまった体でいきなりハードなランニングや筋トレはキツい。中高年ともなればなおさらだ。そこで、「まずはできることから」と気軽に始められそうな運動を探したとき、「ウォーキング」はもってこいのチョイス。しかし、そのウォーキングは果たして本当に効果的なのか? 「1日1万歩を心がけているから」という声も多いだろうが、その根拠は何か?

■「ブルーバックス」ブランド

 講談社「ブルーバックス」の『ウォーキングの科学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方』(能勢 博/講談社)は、そこを徹底的に追求した1冊だ。ブルーバックスといえば1960年代から続く、定評ある科学系新書シリーズ。医師にして信州大学医学部特任教授である著者は運動生理学のプロ。7000人にもおよぶ実験結果と蓄積されたデータから、ウォーキングを多角的に分析している。

 実際、本書で紹介されているウォーキングの実態、方法、効果は、すべて地道な実験と緻密な科学的分析に基づいて実証されたものだ。正直、洪水のように押し寄せる専門用語と豊富な数字の数々は、決して読みやすいわけではない。だが、その読みにくさは、ある意味、この本の専門性と信頼度の高さの何よりの証しともいえよう。ちなみに著者は、「はじめに」で「急ぐ人は実践編と応用編から読んでいただいてもかまわない」と明言している(笑)。

 さて、肝心な中身だが、これまでのウォーキングのイメージを覆す分析結果が目を引く。

■「1日1万歩」の効果の真相

 たとえば冒頭でも触れた「1日1万歩」の実態。健康的な運動の代名詞のようにも語られる言葉だが、実験の結果、血圧が少し下がる、血液が少しサラサラになる、といった効果は認められたが、体力の顕著な向上はないことが判明。適度な運動が予防や治療につながる生活習慣病の改善効果も少ないという。詳細は本書を読んでほしいが、著者はこうした実態にもかかわらず「1日1万歩」が奨励されてきた理由を、かつては個人の体力やウォーキングの実態、効果を詳細に測定できる機会や機器、研究がなかったためではないか、と指摘している。

■「インターバル速歩」でウォーキングの質を高める

 見方を変えると、著者は過去にない調査や実験を豊富に行ってきたということだ。それにより導き出された効果的なウォーキングのポイントは、「1日1万歩」のようなウォーキングの量ではなく、ウォーキングの「強度」という視点。つまりただ歩くのではなく、一定の時間、歩き続けると息切れをする程度の「速歩」、早歩きのウォーキングこそが体力向上を始めとするさまざまな効果を生むことがわかったのである。

 もちろん、その速歩を長時間、続けることは一般人には限界がある。よって、著者が勧めるのは速歩とゆっくり歩きを交互に繰り返す「インターバル速歩」を一定量、一定期間続けること。その量や期間も非現実的ではなく、日常生活の中でも取り組める内容かつ、そのコツも紹介している。正しいフォームをイラスト付きで解説してある点も親切。ただのデータ豊富な科学専門書ではなく、実践のしやすさにも配慮されている。

 さらに著者は「インターバル速歩」の効果を、実験を伴って実に多方面から探求。結果、生活習慣病や、驚くことに熱中症の対策にも効果があることを実証している。その内容もさることながら、読書という観点で興味深いのは、その丁寧な実験プロセスや解説が、生活習慣病や熱中症の原因やシステムの理解にもつながること。「乳酸は疲労物質か」といった、運動生理学の最新情報もコラムという形で触れられている。「体力を向上させたい」という人へ向けた実用書でもありながら、知的好奇心も満たされる科学書。そう、やはり本書は「ブルーバックス」シリーズなのだ。

文=田澤健一郎