もし死んだら、スマホのデータはどうする? おひとり様が終活前にやるべきこと

暮らし

公開日:2019/12/7

『見てわかる! おひとり様の老後』(木谷倫之/宝島社)

 1980年代の後半に流行語にもなった、「DINKs」という言葉を覚えている読者はいるだろうか。共働きでそれぞれの財布は分け、意識的に子どもをつくらないという「Double Income No Kids」の頭文字をつなげた言葉だ。経済的にも時間的にも自由な新しい夫婦のあり方としてもてはやされた。だが今となっては収入に限界があるため共働きせざるをえず、子どもを生みたくてもままならないこともあって、少子高齢化に歯止めがかからない状況だ。それでも現在60代にさしかかっているであろうDINKsを選択した人たちも、子どもがいる夫婦世帯も、子どもが独立し配偶者がどちらか亡くなればひとりになることには変わりない。
 
『見てわかる! おひとり様の老後』(木谷倫之/宝島社)では、積極的な選択ではなく消極的な理由からひとりになるケースも含めて、国民の半数以上が「おひとり様」になることを運命づけられているとして、老後を3つのステージに分け、それぞれのステージにおいて必要な準備について解説している。

(1)元気で健康なステージ

「老後資金2000万円」が話題になった。年金だけで生活するのは厳しそうだと考えると、会社勤務の人はそのまま勤務を延長する「勤務延長制度」や、いったん退職してから新たな雇用条件で働く「再雇用制度」の利用を検討することになるだろう。あるいは別のアルバイトや、月10万円程度を稼ぐようなプチ起業も選択肢に入るかもしれない。

 いずれにせよ、このステージでまずやるべきは「ローンや借金の返済」だ。そのためには、「生活のダウンサイジング」が必要となる。思い出の品や捨てられずにいた物を整理し、賃料の高くない賃貸物件に引っ越すことなども本書は提案する。持ち家のある人ならば、死後に不動産を売却する「リバースモーゲージ」という金融サービスを活用すれば、持ち家を担保に自宅不動産に住んだままお金を借りることもできる。

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(2)介護のステージ

 介護が必要になったとき、介護保険を受けるための認定には申請から30日を要し、さらにサービスを開始する前にケアプランを作成して役所に提出しなければならず、その作業は素人ひとりでは無理そうだ。そこで頼るのが、全国に4457箇所(掲載時)の窓口がある「地域包括支援センター」だ。この施設は、65歳以上の人の、介護、医療、保健、福祉の総合相談窓口で、健康管理や精神面のチェックをしたり、判断力の低下による金銭的搾取や詐欺から守るための「成年後見制度」の活用をサポートしたりといった業務を行っている。介護が必要になる前の段階でも、もし健康に不安があるようであれば積極的に相談におもむくことを本書は勧める。

(3)亡くなる直前、そして死後のステージ

 読者のなかには、死後に自分のパソコンやスマホのデータを消去してもらいたいと考えている人も多いだろう。しかし、友人や知人に頼んだとしても、実際に遂行してもらうのは難しい。もしやってもらおうとすると、相手に住居不法侵入や窃盗といった罪を負わせてしまいかねない。そこで、「死後事務委任契約」を結ぶという方法がある。これは、死後に残る各種の代金支払いや清算、葬儀の方法などを委任するのが本来の使い方だが、近年ではSNSのアカウントの削除といった依頼をするケースもあるという。とはいえ、法律的な処理が必要な場面もあることから、本書では弁護士に生前契約したほうが安心としている。

 本書は大判で図版も多く、上記のステージにおいてそれぞれ「おひとり様」がやるべきことをチェックシートで押さえられる構成となっている。すべての項目が容易にこなせるわけではないだろうが、不安や悩みを解決する大きな支えになるだろう。だがいずれにしても、気楽に生きていくのが難しいように、現代においては気楽に死ぬこともままならないようだ…。

文=清水銀嶺