信じるのは、己だけ。波瀾万丈YouTuberてんちむによる、強く生きるための指南書

エンタメ

2019/12/9

『私、息してる?』(てんちむ/竹書房)

「てんちむ」という名前を聞いたとき、どのような女性を思い浮かべるだろうか。

 おそらく今は、YouTuberや起業家として活躍する彼女の姿を思い出す人が大多数だろう。もしくは、少し上の世代の人であれば、NHKで放送されていた『天才てれびくんMAX』にレギュラー出演していた「てんかりん」や、ファッション雑誌『ピチレモン』の専属モデルの時をイメージする人もいるかもしれない。

 幼い頃からテレビ出演や専属モデルなど華々しい活動をしていたように見えるてんちむだが、ネットの炎上を機に2008年に芸能界を引退するような騒動もあった。目立つ職業だからこそのバッシングも多くあり、シビアな業界で戦い続けてきたのだ。

 そんな彼女が、初の書き下ろし本『私、息してる?』(竹書房)を出した。2010年に一度、自身の日記を書籍化した『中学生失格』を出版しヒット作となっているが、一からすべて書き下ろしたのは今回が初めてである。

 そこに描かれているのは、彼女の壮絶な半生、そこから学んだ自身の哲学、そしてそんな彼女の周囲にいる人々から見たてんちむの姿、である。最初に読んだときは、あまりにも赤裸々に、思いの丈を綴っていることに驚いた。

 一見、多くのファンに支持される幸せな女性のように思えてしまうが、彼女自身は全く自分のことを幸せだとは思っていない。それどころか、夢も目標もなく、ただ仕事をしないと食っていけない(おまけに彼女は億ションまで買ってしまっている)から仕事をしている、というなんとも地に足がついた考え方である。

 ファンからの様々な質問に答える、Q&Aコーナーでも、たとえば「都合のいい女やめたいです」という質問に「私が『禁煙します』っていうのと同じで結局自分の意思がどこまで強いかだよねー」と見方によってはかなりドライなコメントをする。しかし、この本を一冊通して読んでいれば、そういった彼女のストイックかつ現実的な視点は一貫しており、ある種の優しさ(意味もなく甘やかさない)なのではとも感じる。

 また、「大事に思うほど好きになってはいけない気がする。人を愛してぇ」という質問に「私も君もまず自分を愛するところから始めないとダメなようだな わかるよ〜わかるよ、その気持ち」と返すてんちむ。決して背伸びをせず、等身大のまま真摯に答える彼女の姿勢は格好いい。

 合間合間に挟まれる、彼女の周囲の人たちが寄せるエッセイも面白い。友達や弟だけではなく、元彼やセフレまでもが登場し、彼女との思い出を綴る。その人たちそれぞれの瞳に映るてんちむの姿はまた少しずつ違い、彼女の一人語りとあいまって、より立体的なてんちむの人物像が浮かび上がってくる。

 中には、父の死や自殺を試みたときの記憶など、辛いエピソードも描かれる。その時期を経て、彼女は「病む」ことではなく「諦める」ことを選んだ。諦めて、強く生きることを選んだのだ。

みんな病んで病んでどうしようもない時ってあると思うんだけど、結果どうにもならないから病んでも無駄。そんな時私は、「あ、そうだ私現世捨ててるからどうでもいいや。散々消えたがってたじゃん、そもそも捨ててる人生に何を期待してるの?早く来世で息したいんだ」って。

 一見投げやりに思える言葉だが、彼女はどこまでも前向きだ。この本は強く生きたい人たちにとっての指南書でもあり、てんちむ自身の葛藤が生々しく描かれた記録でもある。読んでいると、その熱量に自分まで背中を押されるような本だ。

文=園田もなか