徳川家康や明治天皇も愛読した! 中国の古典『貞観政要』が読み継がれるワケ

ビジネス

公開日:2020/1/14

『座右の書「貞観政要」 中国古典に学ぶ「世界最高のリーダー論」』(出口治明/KADOKAWA/角川新書)

 初めて「令和」と書かれた年賀状が行き交い、2010年代が終わって2020年代へ。今年の始まりは、いつもより時代の変わり目を感じさせる。これからの時代、自分はどう生きるのか――あらためてそんなことを自問した方もいるのではないだろうか。よく「古典に学べ」といわれることがあるが、こういう大きな問いにこそ先人の知恵の詰まった古典は有効なのかもしれない。

 たとえば今年1月のNHK『100分de 名著』でも取り上げられた中国の古典『貞観政要』をご存じだろうか? この書は、中国史上、最も国内が安定した時代のひとつといわれる「貞観時代」(西暦627〜649年)を治めた唐の第二代皇帝・太宗(李世民)と、その臣下との政治上の議論や問答をまとめたものだ。

 こうした概要だけではわからないが、この書に書かれているのは人間と人間が作る社会はどのようなものか、リーダー(皇帝)と部下・フォロワー(臣下)の関係はどうあるべきか、理想のリーダーになるためには何をなすべきか、ということ。実は「いまに通じるリーダー論、組織論の教科書」ともいわれる名著であり、かつてクビライや乾隆帝などの中国皇帝、さらには北条政子や徳川家康、明治天皇もこの本で「帝王学」を学んだという。

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 ここでいきなり本編に挑むのもいいが、前提知識があればより理解が進む。そんな時にオススメなのが新書の『座右の書「貞観政要」 中国古典に学ぶ「世界最高のリーダー論」』(出口治明/KADOKAWA/角川新書)だ。著者の出口治明氏(立命館アジア太平洋大学学長)は実業家であり稀代の読書家としても知られるが、なんと「毎日、この古典に叱られている」というほど影響を受け、上記のNHK『100分de 名著』の指南役も務めている。

 本書ではベンチャー系生命保険会社の創業者として事業を軌道に乗せた自らの体験をベースにしながら、本当に役立った『貞観政要』の知恵を凝縮。大きく「リーダーは器を大きくしようとせずに、中身を捨てる」「諫言の重要性を知る」「謙虚に思考し、正しく行動する」「信と誠がある人が人を動かす」「伝家の宝刀は抜かないほうが怖い」「有終の美は自分にかかっている」といった6つの観点で、全10巻40篇に及ぶ古典の名著を現代に通じる視点で読み解いてくれるのだ。

 なお歴史好きの著者らしく『貞観政要』が生まれた時代背景、中国ではなぜ歴史書が多く残されるのかといった点まで解説されており、古典の世界がぐっと身近になるのも嬉しい。

 それにしてもなぜ、1300年も前の古典がいまもあらゆる組織人に読み継がれる「座右の書」になるのだろう。それはおそらく李世民が自分の殺害を計画した人物でさえ能力を認めれば側近に取り立て、臣下の厳しい諫言にも耳を傾ける度量のある人物だったことが大きい。だからこそこうして臣下との忌憚のないやり取りが記録に残り、我々は彼の真摯な政治への姿勢を知り感銘を受けるのだ。「脳が同じである以上、どのような時代であっても、人間が思いつくことや喜怒哀楽は同じ」(著者)であり、それは人生を見つめる目線においても同様。現代人にとって示唆に富む「生きた知恵」になり得るのだ。

 なお一般にリーダー論というとビジネスがメインになりやすく、その意味では本書も同様だ。だが強く印象に残る「人はどう生きるべきか」という視座には、古典がベースだからこそ何もビジネスに限らない普遍性がある。おそらく本書で『貞観政要』の入り口に立つことは、多くの人の「生き方の軸」の強化につながるだろう。

文=荒井理恵

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