3.11後に風俗店が繁盛した本当の理由は? 家族を亡くした風俗嬢が明かす、東日本大震災の裏側

社会

2020/1/12

『震災風俗嬢』(小野一光/集英社)

 もうすぐ9年。2011年3月11日に起きた東日本大震災を思い出し、時の流れの早さに驚く人は多いだろう。
 
 あの日自分が住んでいた地域は幸いにも直接的な被害は受けなかったが、報道番組や特定のCMしか流れなくなったテレビを見て、「日常」だと思っていたものの脆さを感じ、「当たり前の生活」の尊さが身に染みた。それと同時に日増しに募っていったのが、まだ報道されていないかもしれない「3.11の現実」についてもっと知りたいという気持ちだ。だから、文庫化された『震災風俗嬢』(小野一光/集英社)が目に留まった時には自然と手が伸びた。
 
 本書は「戦場から風俗まで」をテーマに、さまざまな取材記事を執筆してきたフリーライターの小野一光氏が手がけたノンフィクション。小野氏は東日本大震災発生後、ただちに現地入りし、被災地を取材。ところが、凄惨な光景と向き合い続けていくうちに、肉体の疲労よりも“精神的な疲労”を強く感じるようになった。そうした状況で着目したのが被災地の性風俗だったというのだ。

“性風俗の世界に目を向けることは、荒廃しかけている私自身の救いになるような気がした。人間が人間である限り、いかなる状況であっても性から逃れることのできない現実を、性に癒しを求め、癒されている現実を知りたかった。”

 著者は8年にわたり被災地で働く風俗嬢を取材した。そこには、傷を抱えながらもたくましく生きようとする“剥き出しの人間の姿”があった。

■被災地で風俗店が繁盛した理由とは…?

 東日本大震災からわずか1週間で営業を再開させた風俗店があったことや、震災後1~2年の間は風俗店の全盛期だったことなど、本書で明かされる事実に驚く人は多いだろう。おそらく、「そんな大変な時期に風俗へ足を運ぶなんて…」と考える人もいるだろう。だが、そんな状況下だったからこそ、未曽有の災害で家や仕事、さらに大切な家族を失った男たちは、絶望しながらも、風俗に癒しを求めたというのだ。

 本書内で9人の風俗嬢が語る、震災前後での客の変化や彼女たち自身の変化は、決して大々的に報道されることはない。しかし、それらのエピソードはどれも読者の心に突き刺さる。

 中でも印象的だったのは、ユキコさんという風俗嬢の話。ユキコさんは両親を津波で亡くし、一時は鬱のような状態を経験したが、仕事に復帰したことで前向きになれたと語る。

「本当に、仕事には癒されました」

 客から優しい言葉をかけてもらったり、客の壮絶な体験談を聞いたりしているうちに、「私もこれしきのことでは負けていられない」と思えるようになったという。

 そんなユキコさんは、お店のホームページ上にあるブログに自身の境遇を綴っていたため、「この人なら俺の苦しみが分かってもらえるのでは?」と思った客からの指名も入るように。そういう客を迎える時、ユキコさんは凄惨な話にも耳を傾け、時には一緒に泣いたという。憐憫の目を向けられるのではなく苦しみや悲しみを共有できる人がいると思えたことは、心が粉々になってしまった男性たちにとってどれほど心強かっただろう。

 風俗店は、現実世界とは一線を画した特別な場所。働いている女性の名前も年齢も、事実ではないことが前提だ。そんな特殊な場所だからこそ、男たちは現実では決してさらせなかった“素の苦しみ”を露わにできたのではないだろうか。男たちは風俗店の性的な繋がりだけではなく、人間的な結びつきを得て、生きる気力を奮い立たせていたのかもしれない。

 日本を大きく揺さぶった3.11の陰には、自分自身も被災者でありながら同じ状況下の男性たちを癒し、心を救った風俗嬢たちの温かさがあった。彼女たちのたくましさに、読者は男女問わず胸を熱くするはずだ。

文=古川諭香