新田真剣佑&北村匠海のW主演映画『サヨナラまでの30分』の作品世界がよりよく味わえる、脚本家自らが書き下ろしたもうひとつの物語

文芸・カルチャー

2020/1/22

『サヨナラまでの30分 side:ECHOLL』(大島里美/集英社文庫)

 1年前に死んでしまったミュージシャンのアキと、人付き合いが苦手な大学生の颯太。アキが遺した1本のカセットテープが、出会うはずのなかった2人を結びつける――。

『ちはやふる』(2016)で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞し、若手俳優として確固たる地位を築いた新田真剣佑と、ダンスロックバンド「DISH//」のメインボーカルとして同世代から絶大に支持され、俳優としても『君の膵臓をたべたい』(2017)で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞、『君は月夜に光り輝く』(2019)をはじめ多数の作品で活躍する北村匠海

 この2人がW主演を務める映画、『サヨナラまでの30分』が1月24日(金)に公開される。

 本作は小説版とマンガ版が続々と発表されている。小説版は集英社のオレンジ文庫、みらい文庫、そして集英社文庫から発売中で、マンガ版は集英社公式アプリ「マンガMee」より好評配信中だ。合計4種類ものバージョンがあるわけだが、それぞれに異なった切り口や、颯太側から描いたものと、アキ側から描いたものといった具合に、同じ1つの物語がさまざまな視点から展開されていて、読み比べるといっそうおもしろさが深まるだろう。

 特に集英社文庫版の『サヨナラまでの30分 side:ECHOLL』は、映画の脚本を手がけた大島里美さん自らが書き下ろした小説なので、映画では描かれていなかった背景やキャラクターの過去も綴られているのがうれしい。

 高校時代にバンド「ECHOLL」を結成し、カリスマ的な魅力で人を惹きつけるアキ。内向的な性格のため、就職活動に苦戦している颯太。アキが楽曲制作に使っていたカセットテープを偶然拾った颯太は、そのテープを再生してみる。すると再生中の30分間だけ、アキに身体を明け渡してしまう現象が起きる。

 アキは颯太の代わりに就職の面接を受けて、颯太は自分の身体をアキに提供して「ECHOLL」の仲間たちに接触する。彼らは互いに協力し、時と場合に応じての入れ替わり生活は順調に過ぎてゆくのだが…。

 アキの視点と颯太の視点、各自の視点から時系列に沿って物語は進んでいく。生前のアキがバンドをやろうとしたきっかけから始まり、颯太が密かにPCで作曲していることが明かされ、やがて「ECHOLL」の仲間たちが颯太を新メンバーとして受け入れるようになっていく過程が丁寧に、テンポよく紡がれていく。

 アキと想い合っていた紅一点のカナに颯太もまた恋してしまい、彼女を巡って三角関係(?)が発動していくくだりには、恋愛小説のじれきゅん要素もたっぷりだ。

 ポジティブ思考で外交的なアキと、慎重派で自分だけの世界を持っている颯太。彼らは一見対照的なようだけれど、実は似ている。アキの明るさの裏には傷つきやすいナイーブな心が隠されていて、颯太には一度腹を括ったら迷わず突き進んでいける強さがある。

 音楽を通して2人の間には友情が芽生え、葛藤や反撥を経て、最後には「一緒にステージに立ちたい」という同じ思いへと行き着く。別れのときが近づく中、彼らは共に作った歌を歌う。明るく、激しく、ちょっぴり切なく、そしてたまらなく楽しく――。

 映画の小説版というよりも独立したひとつの小説として強度があり、感動的な作品だ。

文=皆川ちか