「運命のドミノ倒し」は終わっていなかった…! バラバラの人生を過ごす“全員主人公”の群像劇、待望の続編

文芸・カルチャー

2020/2/6

『ドミノin上海』(恩田陸/KADOKAWA)

 出会うはずのないバラバラの人生を過ごしてきた人々が、運命のドミノ倒しの連鎖によって東京駅へ集結し、とんでもない事件に立ち向かう――。

 2001年に刊行された恩田陸氏の長編小説『ドミノ』(KADOKAWA)は、27人+1匹からなる“全員主人公”の群像劇だ。章ごとに視点人物を変え、それぞれの人生行路をくっきりと描いていくことで、全員集合の狂熱を高める。クライマックスの快感から、「恩田陸の裏ベスト」の呼び声も高い。

 運命のドミノ倒しは、まだ終わっていなかった。待望の続編『ドミノin上海』(KADOKAWA)は、古くから「魔都」と呼ばれる中国・上海に舞台を移し、新たなる“全員主人公”の群像劇が描かれていく。

 はっきりと書かれてはいないが、前作から数年後の物語だ。B級ホラー映画監督のフィリップ・クレイヴン、保険会社の事務職員で元走り屋の加藤えり子、宅配ピザ屋の店長・市橋健児…。前作のキャラクター数名が再び登場し、新たな顔を読者に晒しつつ、貫禄たっぷりに物語を引っ掻き回す。もしも彼らが“脇役”ならば、物語の大きな流れに寄り添うような動きしかできなかったかもしれない。だが、本シリーズは“全員主人公”なのだ。己の欲望や目的のまま、縦横無尽に上海を駆け回ってはトラブルの種を撒き散らす。

 新たなキャラクター陣も魅力的だ。上海きっての凄腕風水師ながら、なぜかクレイヴン監督の映画「霊幻城の死闘・キョンシーvsゾンビ」でダンスする羽目になった盧蒼星。祖父にあやしげなおつかいを頼まれる骨董品店の店員・黄衛春。正義漢でナルシストな上海警察署長・高清潔。豫園商城のコーヒーショップチェーンで接客係を偽装する女性・マギー。老舗ホテル・青龍飯店の新進気鋭のレストラン料理長で、どんなモノも食材にしてしまう王湯元…。

 さらなる強烈キャラは、上海動物園のやさぐれパンダ、その名も「厳厳(ガンガン)」だ。過去2回も檻を破った前科のある彼は、飼育員の監視の目をくぐってこの日、再び脱獄を試みようとしている。彼もまた“主人公”である以上はもちろん、内面のモノローグがたっぷり記述されている。故郷をしのぶ6世紀の詩人の漢詩を、脱獄決行の士気を高めるために口ずさむ…って、パンダなのに!? パンダを“主人公”の一員とすることで、物語のリアリティラインが歪んでしまうことは作家も重々承知のうえ。解決策はシンプルだ。「あり得ない!」の声をねじ伏せる、「おもしろい!」を実現してしまえばいい。

 総計25人(+3匹)ぶんものストーリーラインが交錯していくにもかかわらず、ストレスなく読みこなせる理由は、キャラの魅力と「引き」の魔力ゆえだ。続きはどうなるのか、次にいったい何が起こるのか? 気になって仕方なくなる「引き」を各章の終わりにセッティングし、読者の興味を引き続けることに成功している。その「引き」は、作者自身にとっての「引き」でもあったのではないか。物語をコントロールする意思はほどよく手放し、物語が自由に動いていく様子を、作者自身もハラハラしながら追いかけていった。だからこそ、こんなにも意外性が連鎖した。にもかかわらず、全員集合の大団円はパーフェクトな着地感。

 前作同様に、小説の冒頭にはシリーズを象徴するこんな一文が置かれている。

<人生における偶然は、必然である――。>

「人生」を「物語」に置き換えてみても、この一文は成立するだろう。その証明が、『ドミノin上海』なのだ。

文=吉田大助