限りある日々を楽しく生きる余命わずかの女性と、死にたがりの女子中学生の身体が入れ替わり! 電撃小説大賞《大賞》受賞作家が贈る、生と死と希望の物語

文芸・カルチャー

公開日:2020/1/24

『冬に咲く花のように生きたあなた』(こがらし輪音/KADOKAWA)

 26歳の会社員・赤月よすがは、出勤途中の駅のホームで女子中学生が線路に転落するのを目撃。とっさに助けたその少女・戸張柊子と、互いの身体が入れ替わってしまう、映画『転校生』状態に! 元に戻るまでの間、柊子として中1女子の生活を送ることになるのだが、スクールカーストや親友との絶交など、彼女の抱える苦しみにふれるのだった――。

 応募総数5088作品の中から第24回電撃小説大賞《大賞》に選ばれ、デビュー作にして10万部を超えるヒットを記録した『この空の上で、いつまでも君を待っている』(メディアワークス文庫/KADOKAWA)のこがらし輪音さん。待望の受賞後第1作となる『冬に咲く花のように生きたあなた』(メディアワークス文庫/KADOKAWA)がこのほど発売された。

 語り手にして主人公のよすがは、「明日死んでもいいくらい、後悔のない人生を送りたい」というモットーを持って生きている。

advertisement

 実はよすがは、難病を抱えていて、それほど長くは生きることのできない身体なのだった。そんな自分の肉体を、まだ若く未来のある柊子に押しつけてしまって申し訳ないという思いから、元に戻る方法を懸命に模索する。

 そうして、自分たちの“入れ替わり現象”には、柊子が、小学校時代からの親友、夏海と決別したことが関係しているのではないか…という推論を導き出す。いじめから逃れるために夏海を裏切り、画家志望である彼女の夢を打ち砕く行為をしたことを、ずっと後悔している柊子。自己嫌悪の思いは現実からの逃避、さらには死への衝動へと発展し、その結果よすがと身体が入れ替わってしまったらしい。

 柊子の置かれた状況を改善しようとよすがは奔走するが、奮闘すればするほど柊子の心は死に向かい、生きる力を失っていく。

 寿命が短い身だからこそ、限りある日々を大切にして、楽しく生きようとするよすが。

 絶望の日々を送り、明日死んでもいいくらい、人生が楽しくない柊子。

“入れ替わり現象”のきっかけとなった駅のホームでの転落事故で、彼女たちが出会ったのは〈偶然〉かもしれない。だけど物語が進んでいくにつれ、“入れ替わり現象”が起きたのはよすがと柊子、そして夏海の3人にとって〈必然〉であったことが次第に判明してくる。年齢や境遇を超え、彼女らはかけがえのない絆を結び、人生を、運命を変えていく。

全部が繋がっていた。無駄なことなんて、一つだって存在しなかった(p.257)。

 残された時間がいよいよ少なくなってゆく中、よすがは自分という人間が生きた意味を、最後の最後に獲得する。そして柊子の中に希望の種を蒔く。

 最終ページを繰った後、本作の表紙カバーをもう一度見返してみてほしい。人気イラストレーターの中村至宏さんによる、美しく繊細なイラストだ。

 雪の降る満開の桜並木の下で、手をつないで歩いている2人の少女。1人は穏やかな横顔で、もう1人はこちらに背を向けていてどんな表情をしているのかは分からない。それでもきっと桜を見上げて微笑んでいるのではないだろうか。

 冬に花が咲くなんて、この光景は現実なのか幻想なのか。それは本作を読み終えてから分かる仕組みとなっている。

文=皆川ちか

『冬に咲く花のように生きたあなた』作品ページ