しょぼくてあたりまえの毎日を見直すコツ。視点を変えればひきこもり問題も解決できる?

社会

2020/2/5

『しょぼい生活革命』(内田樹、えらいてんちょう:著、中田考:司会/晶文社)

 寒さは続きますが、季節はだんだんと春に近づいてきています。新年度や新学期を迎える春は多くの人にとって新しい季節ですが、この場合の新しさというのは「またこの季節がやってきた」という懐かしみの感情も含んでいます。『しょぼい生活革命』(内田樹、えらいてんちょう:著、中田考:司会/晶文社)は、「革命」をより身近で日常的なものとしてとらえ、一日一日の小さな取り組みや意識の持ち方によって「ずいぶん前からなんとなく感じていたけれども、この感覚は新しかったのか!」という“懐かしみをもった新発見”について、対談形式で語ります。
 
 本書の論客は、それぞれの立場で「あたりまえ」を疑う姿勢を持つ3人。池袋のイベントバーエデンの創業や『しょぼい起業で生きていく』の著者として知られる、経営コンサルタント・YouTuberなど複数の肩書をもつ矢内東紀氏(通称「えらいてんちょう」)。大学教授・文学者・武道家の内田樹氏。そして、司会はイスラーム法学者の中田考氏。3人にとって共通の認識は、「予想外であること」が人にとっても経済にとっても重要であるということです。

 たとえば、先行き不透明さや、話の通じなさを前提に物事を進めていく。人に「なぜ?」と問われるようなお金の使い方をする。そのように身銭を切って責任を取り、率先して「予想外さ」を誰かが切り開いていくことによって、社会は豊かになっていくのではないかというのが本書のテーマです。3人の発想をもとに、一見まったく異なる領域の社会問題が、ゆるやかに連結されていきます。

矢内 いま日本にはひきこもりが100万人いるそうですね。彼らに社会復帰して、仕事をしてもらうのは難しいけど、「自宅じゃない、別のところでひきこもっていただけませんか?」というオッファーをしたらどうだろうか、と(笑)。仕事なんか、何もしなくていいから。ただ、そこで寝起きして、煮炊きして、雨戸を開けて風を通して、ときどき掃除をしてくれて、それだけしてくれたらそれなりのお給料を払います、と。

 対談の中で危惧されているのは、シンプルさ・わかりやすさに対する“盲信”。わからないことや難しいことをあれこれと考えた結果、数秒で伝わる話やシンプルな提言が編み出されることは大いに賛同されていますが、問題なのは物事の過程が飛ばされ、はじめからシンプルさ・わかりやすさが目指され、「わからない」ことがないがしろにされてしまうことです。たとえば、「要するに」という言葉で議論を総括する傾向も、複雑な事柄を複雑なまま受容する姿勢を削いでしまうとして批判されています。

内田 知性は自然過程として複雑化し、進化する。だから、複雑な現実を単純な図式で説明するというのは「反自然」なんです。僕たちのDNAに刷り込まれている「複雑化したい」という志向に反している。

 人間本来が持つ複雑化志向の性質に反しているにもかかわらず、それに気づけないということは、身体感覚に大きく起因しているのではと本書は指摘します。

 バズり動画にただハマってしまうような「可笑しさ」ではなく、数メートル先の木陰に得体のしれない何かが隠れている気がするというような「可怪しさ」を察知できる感性が、これからの世界を切り開いていくのかもしれない。そして、そのヒントは一見しょぼいかもしれない日常に隠れている。懐かしくも新しい春を迎える前に、本書の教えを頼りに、しょぼくも革命的な発見をしてみてはいかがでしょうか。

文=神保慶政