宿題なし・定期テストなし・担任を固定しない…学校の当たり前を変え、生徒の自律を促した中学校長から学ぶビジネスリーダーに必要なもの

ビジネス

更新日:2020/2/17

『学校の「当たり前」をやめた。 生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革』(工藤勇一/時事通信社)

 学校は特殊な空間だ、社会の常識が通用しない、などと言われることがあるが、一見保守的な世界で改革を成功させ、注目を集める学校が時に登場する。そんな学校をマネジメントする学校長の考え方や手腕は、ビジネスリーダーが壁を突破するヒントになり得るはずだ。

『学校の「当たり前」をやめた。 生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革』(工藤勇一/時事通信社)は、教育理念を語る教育書ながら、ビジネス書としても人気を集めている。

 工藤勇一氏は、2014年から千代田区立麹町中学校で校長を務める。よく勘違いされるそうだが、民間校長ではない。この学校はもともと「番町小→麹町中→日比谷高→東京大学」という黄金ルートを構成する名門校のひとつとして知られていたが、工藤氏は校長として就任以来、数々の大胆な改革を成功させ、教育界全体に波紋が広がっている。「服装頭髪指導を行わない」「宿題を出さない」「中間・期末テストの全廃」「固定担任制の廃止」など、字面だけ見るといかにも賛否両論が沸き起こりそうなアグレッシブな内容だが、工藤校長が掲げる「どんな子どもに対しても社会でよりよく生きていく力を伸ばす」という学校の最上位目標を実現するための手段だと知れば、必要な改革だと納得できる。

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 改革の考え方については、別記事で紹介しているので、ご参照いただきたい。

【「カンブリア宮殿」にも出演! 公立中学校の校長が、宿題・定期テストを廃止した理由】
//ddnavi.com/review/577624/a/

 さて、本記事で探りたいのは、ビジネスリーダーに役立つヒントである。

 工藤校長は、学校のマネジメントにあたり、次の3つを基本的な考え方として最重視している。

「目的と手段を取り違えない」
「上位目標を忘れない」
「自律のための教育を大切にする」

 手段が目的化することは、ビジネスにおいてもよくある。学校では、例えば次のような事例が本書で挙げられている。

 体育館に子どもたちを集め、生徒指導をする際、教員は「整列しなさい」「静かにしなさい」と大きな声を張り上げる。この場面を体験したり、見聞きしたりしたことがない人のほうが珍しいだろう。このシーンの何が問題なのだろうか。

 工藤校長は、前述の3つの基本的な考え方を重視している。なぜなら、生徒の「生きる力」を伸ばすことが、学校の最上位目標だからだ。「先生が怒っているから」という理由で生徒が整列し、静かにしたとしても、この最上位目標に沿った教育だとは言い難い。これが、ビジネスシーンでもよくある「目的と手段の取り違え」だ。工藤校長いわく、生徒を指導する場において、教員はとかく表面上の「形」を求めたがる。しかし、形にとらわれて見かけ上は整えたとしても、生徒自身が「静かに話を聞く」ことの意義について考える機会は、この時、奪われている。

 さらに言えば、ビジネスにおいて相手が話を聞かないからといって、相手を注意したり叱責したりするビジネスパーソンは、まずいない。「注意をされたから聞く」という姿勢が体に染み込んでしまっては、社会への適応が困難になる。

 こんな時、教員は注意をするのではなく、自分と関係深い興味を引く話をするべきである、と本書は述べている。

 本書にはこの他、ビジネスに共通する事例や考え方が数多く収録されている。

 本書は、多様化が進む社会でリーダーに求められるのは、集団をまとめ上げる力である、と指摘する。多様性のある社会をありのままに受け入れて、感情に流されるのではなく、自分が何をすべきかを考え、適切な手段をとることができる力。考えてみれば、公立学校は多様性の社会だ。ビジネスリーダーが本書を手に取れば、ビジネス書として支持されていることに納得するはずだ。

文=ルートつつみ