「マツコロイド」作者・石黒浩が1000年後のロボットと人間を語る「最終的に生き残るのは機械だけ」

スポーツ・科学

2020/3/10

『最後の講義 完全版 石黒浩 1000年後のロボットと人間』(石黒浩/主婦の友社)

「あなたは人生最後の日に何を語りますか」。NHK BSで放送され、大反響を呼んだ番組「最後の講義」。各界の第一人者が“人生最後”の覚悟で珠玉のメッセージを贈るこの番組が、このたび待望の書籍化を果たした。今回紹介するのは、ロボット工学の世界的研究者・石黒浩氏の壇上回。ミステリアスな風貌は一度目にしたら、忘れられない。そんな石黒氏はこれまでマツコ・デラックスさんを模したマツコロイド、美人すぎるアンドロイド、さらには自身のアンドロイドなど、数々のロボットを作り続けてきた。そのどれもがもはや人間と区別がつかないほどリアルな作りで、大きな注目を集めた。

ロボットを作っているが、興味があるのは“人間”

 ロボット研究開発の第一人者である石黒氏は、実はロボットに心底興味があるわけではなく、むしろ人間、特に自分自身に意識が向いていると話す。「人間とは何か」という問題が一番気になることで、それがロボット作りのモチベーションになっていると言い切るのには少々驚かされる。

人間とロボットとの共存社会はすぐそこまで来ている

 石黒氏が理想とする未来社会は、ロボットでいろんなサービスが提供されるような社会。人口がこの50年で半減するといわれる日本で、今と同じような生活の質を維持したいなら、いろんなところでロボットを使っていく必要があると言う。事実、ロボットは接客、建設、物流、警備、医療、農業と、既にさまざまな現場で活躍中。でも、多くの人たちにとって、ロボットはまだ少し遠い存在だろう。でも、パソコンのように10〜20万円ぐらいの価格帯で購入できるようになれば、本格的に私たちの生活に普及してくるのは容易に想像ができる。

 ロボットは人間の仕事を奪う、感情がなくて冷たい印象…など、ネガティブな考えを持つ人がいるが、果たして本当にそうなのか? 石黒氏は「子どもや若者が生身の人間には言えないお悩みをアンドロイドには素直に言えたり、いくら人間が話しかけても精神的なプレッシャーで話せなかった認知症の人が遠隔操作型のアンドロイド・テレノイドには話せたり、感動的なことはたくさんある」と話す。

そもそも、人間に絶対的な価値はない

「自分には何も取り柄がない、だから価値がない」、若者の多くが一度は通るこのお悩みに、石黒氏は「そもそも、人間に絶対的な価値があるのがうそだと思う」と断言する。そして、「人間に価値があるなら、なぜ、戦争や自動車で日々、命が失われているのか?」と問う。ただし、「人間には絶対的な価値はない、でも、そこで価値を探すことをやめてはならない」と言うのだ。なぜなら、探すのをやめてしまっては、本当に価値が見つからないし、価値が見つかる可能性がゼロになるから。そして、このように見えないものを探して努力し続けることこそが、まさに“人間の生き方”と言う。

1000年後、生き残るのは機械だけかもしれない

 10年、20年、遅くても100年以内には、人間の脳レベルのコンピュータが作られると言われている。石黒氏によると、「コンピュータが人間の脳に置き換えられ、結果、人間はただの技術の結晶、いわば、ロボットになる。全部を人工臓器で作れば、有機物やタンパク質を捨てて、機械になるということ。1000年後には、人間は“無機物化”になるだろう」とのこと。人間はロボットの力を借り、自らの可能性を広げる一方で、1000年後の未来に生き残るための試練を抱えているのかもしれない。しかし、石黒氏は「人間の可能性はまだあるような気がする」とも話す。ロボットを作りながらも、人間に興味があって、人間に可能性を見出そうとする石黒氏からの、私たちへのエールにも感じる。

生まれ変わるなら、意外なあの昆虫に!?

 講義の中では、3時間にも渡る質疑応答も収められている。学生たちから、ロボットと人間に関するさまざまな質問が飛んだ。そんな中で印象的なのが「生まれ変わったら、何になりたいですか?」という質問。石黒氏はズバリ、ゴキブリだと答える(笑)。理由は「黒いから、服を着替える必要がないし、自分が想像し得ない神経活動を体験できそうだから」。いつも全身黒系のファッションできめている石黒氏をご存じならニヤリとする瞬間である。

 ときにそんなチャーミングなトークを織り交ぜた、石黒氏の貴重なメッセージが本書だ。未来を生きる学生のみならず、大人の私たちにロボットを通じて、「人間とは何か」を改めて考える機会を与えてくれる。番組ではカットされた未放送分も収録し、番組をご覧になった人でも十分に楽しめる充実の1冊だ。

文=濱田恵理