怠惰、疲労、憎悪、衰退、敗北――。これらの言葉にピンときたあなたは、“ペシミスト”かも

暮らし

2020/3/27

『生まれてきたことが苦しいあなたに 最強のペシミスト・シオランの思想』(大谷崇/星海社新書)

 怠惰、疲労、憎悪、衰退、敗北――。

 これらの言葉にピンときた人には、本書を勧めたい。『生まれてきたことが苦しいあなたに 最強のペシミスト・シオランの思想』(大谷崇/星海社新書)の目次に、これらの単語が全て登場する。ペシミストとは、物事をネガティブに思考する悲観論者を意味する。

「ペシミストたちの王」とも呼ばれるエミール・シオランは、1911年ルーマニア生まれだ。第二次世界大戦後のフランスでの活動が目立つ、思想家・哲学家・作家・エッセイストである。ニヒリズムの思想家と呼ばれることもある。

 世の中は、明るいことばかりではない。世知辛い現代社会を生き抜くためには、暗い思想に浸る時間があるのもいい。「本」の良いところは、闇にも絶望にも失敗にも、そっと寄り添ってくれるところかもしれない。

 シオランが「独り」について残した言葉を読んでみよう。

“独りでいることが、こよなく楽しいので、ちょっとした会合の約束も、私には磔刑にひとしい。”(『告白と呪詛』6頁)

 著者の大谷崇さんは、“このような彼の暗黒の思想を、もっと多くの人に知ってもらいたいというのが本書執筆の動機だ”と述べる。大谷さん自身が、大学の哲学科で厭世的な作家を読み漁った末に、シオランを卒業論文のテーマに選んだ。2018年からは彼の故国ルーマニアに留学している。

“もう駄目だ。こうして時間を無駄にしていていいのか。午前中、ほとんど昼ちかくになって、例によってまだ仕事に取りかかっていないのに気づき、あやうく落涙するところだった”(『カイエ』135頁)

 まるで現代のSNSのようで、親近感さえ持てる。ちなみに「仕事」とは執筆活動のことであるが、シオランは執筆で生計を立てていたわけではなかったそうだ。自分のために行なっている執筆活動ですら「落涙」しそうになるほど取りかかれないシオランにとって、生活のための労働はもっと嫌だっただろう。

 そんなシオランだが、ほんの少しだけ、肯定的な言葉も残している点は特筆すべきだろう。

“いわゆる〈ペシミズム〉とは、存在する一切のものの苦しみを味わうすべ、つまり〈生きる知恵〉にほかならない”(『カイエ』843頁)

 シオランは「死」についての記述も数多く残しているが、彼が亡くなったのは1995年である。つまり84歳まで、彼は悲観しながら生きたのだ。彼のはなはだしくペシミスティックな「生きる知恵」を、ぜひ読んでみてほしい。

文=えんどーこーた