暗殺毒や洗脳薬は実在する!? 冷戦下CIAの極秘洗脳プロジェクトが明らかに

社会

2020/3/12

『CIA裏面史 薬物と洗脳、拷問と暗殺』(スティーブン・キンザー:著、花田知恵:訳/原書房)

「暗殺のために飲料に毒を入れる」「自白薬を飲ませて秘密を吐かせる」「殺人代行のために薬物で他人をコントロールする」――こうしたスパイ映画のようなことを、本当にやろうとしていた組織がある。それがアメリカのCIAだ。『CIA裏面史 薬物と洗脳、拷問と暗殺』(スティーブン・キンザー:著、花田知恵:訳/原書房)は、米ソ冷戦下のCIA秘密プロジェクト〈MKウルトラ〉の中核であったシドニー・ゴットリーブの人生を追うノンフィクション。読みながら、「表に出して大丈夫?」と著者の身を案じてしまうほどの内容だ。
 
 シドニー・ゴットリーブは、1918年米国ブロンクスに生を受けた。吃音と足の障害のためか学校ではいじめの対象だったという。しかし彼は屈せず、素晴らしい成績でひとり故郷を離れウィスコンシン大学へと進学。植物学、有機化学などを熱心に学んだゴットリーブは、1951年化学者としてCIAに雇用された。何のために? その目的こそCIAの秘密プロジェクト「生物兵器の開発」だった。

 生物兵器はすでに、戦中のドイツや日本で、悲惨な人体実験を交えながら開発が進んでいた。それを戦後、秘密裏に米ソが引き継いだといわれている。背景にあったのは冷戦だ。アメリカでは、国中で「共産主義者が国を乗っ取りにくる」と怯える空気にあったという。戦勝国にもかかわらず、第二次大戦終結後も平和が訪れなかったアメリカ。目に見えない不安が世の中を覆っていた。核はすでにソ連も持っている。次は生物兵器だ。あちらより先に開発しなければ、こちらがやられてしまう…。

 ゴットリーブはCIAで新しい薬物の開発チームに配属され、障害のために兵役志願を断られた屈辱を振り払うがごとく国家貢献に邁進する。

 偶然にもその頃、米軍内で「朝鮮戦争からの帰還兵の中に、マインドコントロールを受けて戻った者がいる」という噂が暗く密やかに広がり始めた。そこで、CIAはその極秘研究の矛先を、大量殺戮から洗脳へと“ピンポイントな殺人”に向けることに決定する。要は、「飲んだら秘密をすべてぶちまけてしまう薬」「敵に捕まったら速やかに自死するための毒」「政府要人の暗殺手段」の開発だ。

 この開発は、マインドコントロール(洗脳)プロジェクト〈MKウルトラ〉と命名された。CIAでもごく一部の人間しか知らない超極秘プロジェクトだ。このトップに抜擢されたのが、有能ながら私生活は地味で、友人も少なく私的な人間関係の最も薄い、シドニー・ゴットリーブだったのだ。

 彼が目をつけたのはLSD。精神の昂揚と幻覚が引き起こされるといわれる薬物だ。彼は自らを実験台に試してみた。これは価値のあるものだと確信するが、そのままではコントロールが効かない。さて、こちらの意のままに相手を操るには、どのくらいの量が必要だろうか?――10年にわたり多くの予算をつぎ込み、目的を隠して売春宿から病院までを巻き込み人体実験(本人の同意なしも含む)を繰り返したその結果は…?

「薬物投与による洗脳は存在しない」

 かくして、1963年〈MKウルトラ〉は解体された。皮肉にも、1962年の『影なき狙撃者』という洗脳を取り上げた映画が、一般大衆の間でヒットを飛ばしていた頃のことである。

 国民が薬物による洗脳の存在をすでに現実のものと思い込んでいる1974年、ニューヨークタイムズ誌にこんな記事が載った。「CIAは(中略)反戦活動や他の反体制派集団に対する違法かつ大規模な諜報活動を国内で行った」。CIAの体勢の変化で、内部情報が漏れ始めた頃だった。そして徐々に、超極秘文書とゴットリーブの名前も出てきたのだ。

 1973年には退職していた彼の元に「出頭せよ」との指令が届き、〈MKウルトラ〉の存在と目的が明らかにされた。さらにゴットリーブの業績(?)として他に明らかになったのは、〈MKウルトラ〉の文書を多く焼却したこと、CIAで最も毒に詳しい人物として要人の毒殺計画に関与したこと(すべて失敗したという)、技術部にいるときに自国兵士用に毒針による自殺キットを造ったこと、だった。

 それにしても、不安が高まると恐ろしいフィクションを産み、自らその中に飛び込んでいく私たち人間の性はなんとも悲しい。本書はひとりの人間の悪の所業を裁くものではなく、集団の不安の行方の恐ろしさを学ぶべく読まれるべきだろう。良心の咎めを受けつつ想像してしまう“夢の薬や兵器”は、そう簡単には実現しないというのに。

 最後に付け加えておこう。シドニー・ゴットリーブは、晩年ボランティア活動に身を捧げ、1999年3月に80歳で死んだ。死因は公表されていない。

文=奥みんす