魔法ファンタジーと本格ミステリーの両立と融合――これまでにない魔法ミステリー!『魔法で人は殺せない』

文芸・カルチャー

更新日:2020/3/21

『魔法で人は殺せない』(蒲生竜哉/幻冬舎)

 表題作である第一話「魔法で人は殺せない」の冒頭には、このような文言が掲げられている。

 魔法には厳格なルールがある。
○ルールその一。魔法は物理学の法則を曲げられない。(中略)
○ルールその二。魔法は正確に魔法陣で定義されなければならない。(中略)
○ルールその三。魔法の行使には領域(リーム)の定義が不可欠である。

 本書『魔法で人は殺せない』(蒲生竜哉/幻冬舎)における謎や事件は例外なく、これらのルールに則って引き起こされ、そしてひもとかれていく。この世界に魔法は存在するけれど、題名どおり魔法で人は殺せないのだ。殺すのは魔法を凶器として――銃や刃物、鈍器などと同じように――使用している人間の悪意に他ならない。

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 この設定が細部にまで徹底されている。そのため、ファンタジーファンにはもちろん、ミステリーファンをも惹きつける説得力を生んでいる。

 主人公は王立魔法院の捜査官、ダベンポート。彼が不可思議な事件やできごとに遭遇してゆく全5話(プラス番外編)という構成だ。

 第1話は、広大な邸宅で起きた伯爵夫人の怪死事件だ。密室内で、まるで身体が内部から破裂したかのような凄惨な死体となって発見された被害者。これは爆弾を使って爆殺したのか、それとも魔法による殺人なのか……。

 魔法陣、「跳ね返り(バックファイヤー)」といった、魔法に関する用語や現象が頻繁に出てくるけれど、それらはすべて上に掲げたルールのもとに使用され、発生している。そういう意味では本作は非常にフェアなのだ。

 弾がないと銃が撃てないように、鞘から抜かないと剣が使えないように、ルールを守ったうえでないと魔法は発動しない。

 なので、各話の犯人たちは知恵を尽くしてルールを充たし、完全犯罪を起こそうとする。ダベンポートは魔法のエキスパートとしてそれらを見抜き、ときに自らの手を汚すこともいとわない。

 魔法は危険だ。少しでも使用法を誤ったら、「跳ね返り」で大けがをしたり、動物化したりすることもある。とりわけホムンクルスを扱った第4話「ホムンクルス事件」は、魔法というもの本来の禍々しさを読む側に改めて突きつけて、重い読後感を残す。

 飄々として掴みどころのないダベンポート、彼を献身的に支えるメイドのリリィ。実直な快男児の騎士団隊長グラム、双子の遺体修復士カラドボルグ姉妹。個性的なキャラクターたちのかけ合いも楽しく、各自に秘められた過去や因縁も大いに気になるところで第1巻は幕を閉じている。

 19世紀のイギリスを彷彿とさせる、街並みや衣装、風俗などの詳細な描写。なんともおいしそうなリリィお手製の料理の数々(特にベーコンエッグにソーセージのボリューミーな朝食のシズル感!)。こういったディテール面の丹念さが、ともすれば観念的になってしまいそうな世界にリアリティを与えている。

 魔法ファンタジーと本格ミステリーの両立と融合。それぞれの特性を組み合わせることで、これまでになかった新たなジャンルがここに誕生した。本書の存在こそまさに――魔法的ではないだろうか。

文=皆川ちか