人気シリーズ続編が待望の文庫化! 警察vsヤクザの意地と誇りを賭けた物語。柚月裕子『凶犬の眼』
更新日:2020/6/24
本日発売の「文庫本」の内容をいち早く紹介!
サイズが小さいので移動などの持ち運びにも便利で、値段も手ごろに入手できるのが文庫本の魅力。読み逃していた“人気作品”を楽しむことができる、貴重なチャンスをお見逃しなく。
《以下のレビューは単行本刊行時(2018年3月)の紹介です》
ミステリー作家・柚月裕子の新作長編『凶犬の眼』(柚月裕子/KADOKAWA)が刊行された。同作は日本推理作家協会賞を受賞したベストセラー『孤狼の血』に続く、シリーズの最新刊。2018年5月には役所広司、松坂桃李らが出演する実写映画の公開が控えており、まさに絶好のタイミングでの続編リリースとなった。
広島県呉原市を震撼させたあの抗争事件から2年。伝説のマル暴刑事・大上のもとで暴力団壊滅のために尽力した若手刑事・日岡は、県北の駐在所に異動となっていた。多くのヤクザと深い繋がりをもつ日岡を警察上層部は危険視、抗争のさらなる火種となることをおそれて、遠く離れた田舎町に左遷したのだ。平和な農村をパトロールするだけの毎日のなか、日岡は毎週のように拳銃を分解・点検しながら、現場復帰への思いを募らせてゆく。
そんなある日、久々に呉原まで足を延ばした日岡は、なじみの小料理屋・志乃に立ち寄り、建設会社社長の吉岡という男を紹介された。その風貌は全国指名手配中の暴力団員・国光寛郎を思わせる。男は自分が指名手配犯であることを認めたうえで、動揺する日岡に広島弁でこう告げた。「ちいと時間をつかい」「わしゃァ、まだやることが残っとる身じゃ。じゃが、目処がついたら、必ずあんたに手錠を嵌めてもらう。約束するわい」。
その年、関西に拠点を置く明石組の4代目組長・武田力也が、敵対する心和会のヒットマンに射殺されるという事件が起こっていた。トップを殺された明石組は即座に報復を開始、多数の死者を出す最悪の抗争事件へと発展してゆく。そして武田組長暗殺の首謀者とされているのが、心和会の有力幹部で、事件直後から姿をくらましている国光なのだった。国光の言う「やること」とはいったい何なのか? 明石組と心和会の抗争にはどんな結末が待ち受けているのか?
本作で描かれる人物、組織はもちろん架空のものだが、抗争事件を追った雑誌記事が挿入されるなどセミ・ドキュメンタリー的手法も用いられており、全編にみなぎるリアリティは『孤狼の血』以上であるとも言える。
建設会社社長を装って、県北のゴルフ場開発現場に姿を現した国光。その正体を通報すれば、日岡は早めに現場復帰を果たすことができるだろう。しかし日岡は思いとどまる。むしろヤクザでありながら筋の通った国光の人間性に、少しずつ惹かれてゆくのだ。シリーズ前作『孤狼の血』が日岡と大上の師弟愛(もしくは擬似的父子関係)の物語であったとするなら、今作『凶犬の眼』は警察官とヤクザという立場を超越した、男の友情の物語である。国光の「約束」は果たされるのか、興奮のクライマックスで明らかになるその真実をぜひ確かめていただきたい。
柚月裕子がこのシリーズで描こうとしているもの。それは無骨でぶれない男たちの生き様、死に様だ。本作の作中時代は平成2年に設定されているが、それから2年後、暴力団対策法の施行(平成4年)によって、ヤクザ社会は大きな変化を迎えることになる。本作は激動の時代に生きた時代遅れの極道たち=「凶犬」への挽歌でもあるのだ。
シリーズ前作のファンはもちろん、エンターテインメント小説読者も必見の、力強く美しいミステリーである。
文=朝宮運河
レビューカテゴリーの最新記事
今月のダ・ヴィンチ
ダ・ヴィンチ 2021年2月号 美少女戦士セーラームーン/島本理生特集
特集1 わたしたちのセーラームーンが劇場に帰ってきた! 「美少女戦士セーラームーン」/特集2 作家生活20周年 島本理生の祈り 他...
2021年1月6日発売 定価 700円
出版社・ストアのオススメ
双葉社
人生は“太巻き”みたい!?『生徒諸君!』と並ぶヒット作が約30年ぶりに帰ってきた!『Let’s豪徳寺! SECOND』 庄司陽子先生インタビュー
文藝春秋
のんが挿画を担当! 不思議な能力を持った少女が、アイドルを目指す。しかし、待ち受けていたのは凄惨なラストだった
白泉社
特装版はニャンコ先生のかわいいフィギュア付き!『夏目友人帳』26巻に「最高に癒されます」と反響続出
主婦の友社
ペットが生きているうちにこそ読みたい! 看取り、葬儀、供養…飼い主だからこそしてあげられる「ペットの終活」
ポプラ社
予想もつかない衝撃のラストが待ち受ける! 大人気「冬」シリーズの第3弾『その冬、君を許すために』に期待の声
楽天Kobo
楽天Kobo年間総合ランキングが発表! 1位は社会現象にもなっているアノ作品
ブックラブ
「ようやく本が出たんだなという実感を持つことができました」森見登美彦氏が登場! ブックラブ読書会レポート
新着記事
-
連載
「まるで忍者だよ…」いつも音もなく近づいてくる猫のキュルガ。もしかしてアノ技使ってる?/夜は猫といっしょ③
-
ニュース
「次の出血までに己を鍛えなおしておけ!」一見怖そうに見える“巨核球”だがじつは…/アニメ「はたらく細胞!!」第1話
-
レビュー
指原莉乃、バイキング小峠、さまぁ~ず大竹…彼らの言葉が心に刺さる理由を作詞家・いしわたり淳治が解剖!
-
レビュー
異世界転生モノの新ジャンルに「古代エジプト」はいかが!? 神秘と謎に満ちた古代エジプトの秘密を徹底解剖する1冊
-
ニュース
「奈良親子の“ダブルめんどくせー”は永久保存版」アニメ「BORUTO」第181話、うずまき親子の“忍組手”がおこなわれている一方で…