人気シリーズ続編が待望の文庫化! 警察vsヤクザの意地と誇りを賭けた物語。柚月裕子『孤狼の血』

文芸・カルチャー

2020/3/24

本日発売の「文庫本」の内容をいち早く紹介!
サイズが小さいので移動などの持ち運びにも便利で、値段も手ごろに入手できるのが文庫本の魅力。読み逃していた“人気作品”を楽しむことができる、貴重なチャンスをお見逃しなく。

《以下のレビューは単行本刊行時(2018年3月)の紹介です》

『凶犬の眼』(柚月裕子/KADOKAWA)

 ミステリー作家・柚月裕子の新作長編『凶犬の眼』(柚月裕子/KADOKAWA)が刊行された。同作は日本推理作家協会賞を受賞したベストセラー『孤狼の血』に続く、シリーズの最新刊。2018年5月には役所広司、松坂桃李らが出演する実写映画の公開が控えており、まさに絶好のタイミングでの続編リリースとなった。

 広島県呉原市を震撼させたあの抗争事件から2年。伝説のマル暴刑事・大上のもとで暴力団壊滅のために尽力した若手刑事・日岡は、県北の駐在所に異動となっていた。多くのヤクザと深い繋がりをもつ日岡を警察上層部は危険視、抗争のさらなる火種となることをおそれて、遠く離れた田舎町に左遷したのだ。平和な農村をパトロールするだけの毎日のなか、日岡は毎週のように拳銃を分解・点検しながら、現場復帰への思いを募らせてゆく。

 そんなある日、久々に呉原まで足を延ばした日岡は、なじみの小料理屋・志乃に立ち寄り、建設会社社長の吉岡という男を紹介された。その風貌は全国指名手配中の暴力団員・国光寛郎を思わせる。男は自分が指名手配犯であることを認めたうえで、動揺する日岡に広島弁でこう告げた。「ちいと時間をつかい」「わしゃァ、まだやることが残っとる身じゃ。じゃが、目処がついたら、必ずあんたに手錠を嵌めてもらう。約束するわい」。

 その年、関西に拠点を置く明石組の4代目組長・武田力也が、敵対する心和会のヒットマンに射殺されるという事件が起こっていた。トップを殺された明石組は即座に報復を開始、多数の死者を出す最悪の抗争事件へと発展してゆく。そして武田組長暗殺の首謀者とされているのが、心和会の有力幹部で、事件直後から姿をくらましている国光なのだった。国光の言う「やること」とはいったい何なのか? 明石組と心和会の抗争にはどんな結末が待ち受けているのか?

 本作で描かれる人物、組織はもちろん架空のものだが、抗争事件を追った雑誌記事が挿入されるなどセミ・ドキュメンタリー的手法も用いられており、全編にみなぎるリアリティは『孤狼の血』以上であるとも言える。

 建設会社社長を装って、県北のゴルフ場開発現場に姿を現した国光。その正体を通報すれば、日岡は早めに現場復帰を果たすことができるだろう。しかし日岡は思いとどまる。むしろヤクザでありながら筋の通った国光の人間性に、少しずつ惹かれてゆくのだ。シリーズ前作『孤狼の血』が日岡と大上の師弟愛(もしくは擬似的父子関係)の物語であったとするなら、今作『凶犬の眼』は警察官とヤクザという立場を超越した、男の友情の物語である。国光の「約束」は果たされるのか、興奮のクライマックスで明らかになるその真実をぜひ確かめていただきたい。

 柚月裕子がこのシリーズで描こうとしているもの。それは無骨でぶれない男たちの生き様、死に様だ。本作の作中時代は平成2年に設定されているが、それから2年後、暴力団対策法の施行(平成4年)によって、ヤクザ社会は大きな変化を迎えることになる。本作は激動の時代に生きた時代遅れの極道たち=「凶犬」への挽歌でもあるのだ。

 シリーズ前作のファンはもちろん、エンターテインメント小説読者も必見の、力強く美しいミステリーである。

文=朝宮運河