「人の心の声が聞こえる」彼女を“脳内”で溺愛するイケメン眼鏡男子、病気認定されるほどの恋の病の行方は?

文芸・カルチャー

2020/4/1

『次期風紀委員長の深見先輩は間違いなく病気』(稲井田そう/KADOKAWA)

 高校進学と共に実家を離れ、アパートでひとり暮らしをする女子高生、鏡花。学費免除の特待生に選ばれるために入った風紀委員会で、成績優秀・眉目秀麗の上級生、深見から熱烈な愛を叫ばれる。ただし、心のなかで。

 実は鏡花には「人の心の声が聞こえる」特殊な力があるのだった――。

 数多くの作家を輩出してきた国内最大級の小説投稿サイト「小説家になろう」から、新たな逸材がデビューした。『次期風紀委員長の深見先輩は間違いなく病気』(稲井田そう/KADOKAWA)…という、題名からして強インパクトを放っている本作だが、中身はさらに強烈だ。

 主人公の鏡花は、その能力ゆえに孤独な人生を歩んできた。

 母親からは恐れられ、父親からは無視されて、友だちも、もちろん彼氏もつくらず、つくれず、たったひとりで生きている。

 人の心が分かるということは、人の心に土足で踏み込むことでもある。

 どんなに親しい関係性でも、知られたくない感情はある。妬みや嫉み、悪意に憎しみ、秘密と嘘。そして欲望。

 人間である以上、そうした感情は誰もが持っていて、それを表に出さないよう私たちは気をつけている。

 そんな人の心の不可侵な領域を侵害してしまう自分は、〈化け物〉だと鏡花は感じる。

 そして、こんな自分に「俺の天使!」と呼びかける(註:脳内で)深見先輩は、間違いなく病気だとみなす。

(つ、ついに見つけた……! 俺の……俺の、天使だっ!!)
(天使の住処はどこにあるんだろう……知りたい。ついていきたい。同じ家に帰りたい。連れて帰りたい……)
((中略)鏡花のいる方向からの空気が甘い……美味しい……絶対に栄養価が高い……!)

 全編に亘って横溢する深見先輩のモノローグは、たしかに病気認定されてしまうのも致し方なし…というくらいに、恋の病をこじらせている。

 見た目はクールビューティーな眼鏡男子。愛する鏡花にも表面上は至って冷静に振る舞い、恋心は固く胸の底に隠している。しかし、頭の中では狂気が乱舞するような妄想が渦巻いている。

 先輩の妄想に対し、鏡花はやはり脳内で的確、かつ辛らつなツッコミを入れてゆく。

 出会った当初の春はまだ、そのツッコミ具合もややぎこちないが、夏、秋と季節を重ねるにつれて間合いが絶妙になっていくのが、なんともおかしい。

 どんなに親しい関係性でも、知られたくない感情はある。

 とりわけ恋愛関係では、そうだ。ときに相手を疑い、幻滅し、心変わりすることもあるだろう。

 しかし深見先輩はぶれない。出会った瞬間から、彼にとって鏡花は常に〈天使〉のまま。鏡花だけでなく読者も「この人はどうしてそこまで(鏡花が)好きなの?」と、いぶかしむようになってくる後半で、その理由が明かされる。

 なぜ彼は彼女を愛するようになったのか。彼女を〈天使〉と称えるのか。

 そこには、鏡花を苦しめ、傷つけてきた能力が深く関わっていた。

 鏡花にとっては〈化け物〉、深見にとっては〈天使〉の能力が、彼らにもたらすラストシーンは、救済なのか呪いなのか。

 異能を軸として、恋愛という関係性の本質を、掘って掘って掘り下げようとする著者の真摯な思いに圧倒される。

文=皆川ちか

『次期風紀委員長の深見先輩は間違いなく病気』作品ページ▶︎ https://www.kadokawa.co.jp/product/321905000426/

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