井伏鱒二も魅せられた、 児童文学の最高傑作!『ドクター・ドリトル』公開前に味わう金原瑞人の新訳!

文芸・カルチャー

2020/4/4

『ドリトル先生アフリカへ行く』(ヒュー・ロフティング:著、金原瑞人・藤嶋桂子:訳/竹書房)

 川のほとりのパドルビー。なんて素敵な響きだろうと幼心に憧れたその場所は、ドリトル先生の屋敷があるイングランド南西部の田舎町だ。ドリトル先生、それはあらゆる動物の言葉を話せる心優しき獣医。1961年に井伏鱒二の翻訳版が刊行されて以来、さまざまな形で訳されてきた「ドリトル先生」シリーズが愛され続けている理由はひとえに、圧倒的な優しさとおもしろさだと思う。

 このたび、新たに金原瑞人・藤嶋桂子訳で竹書房から『ドリトル先生アフリカへ行く』(ヒュー・ロフティング)が刊行されたのをきっかけに読み直してみたが、子どものころに受けたのと変わらない胸躍るときめきと、そして大人になった今だからこそ沁みるドリトル先生の生きざまに、改めて心が揺さぶられた。

 ドリトル先生は優しいけれど、偏屈だ。医学博士で、地位も名誉もすぐれた腕前ももつお人なのに、人間より動物が好きで、そこらじゅうから拾ってきては屋敷や庭園に住まわせるため、どんどん患者の足が遠のいてしまう。増え続ける動物を養わなくてはならないのに、収入はほとんどゼロに等しい。

 そんなとき、人間の言葉がしゃべれるアフリカ生まれのオウム・ポリネシア(180歳以上)に、動物のお医者さんになることをすすめられる。ポリネシアに動物の言葉を教えてもらった先生のもとにはあちこちから動物が集まり、あっというまにまた金持ちになるものの、サーカスから逃げ出したワニが住み着いたせいで、飼い主たちはまた近寄らなくなり、貧乏にもとどおり。

 でも、ドリトル先生は気にしない。動物たちのおかげで卵も牛乳も手に入るし、お金なんてあってもめんどくさいだけと、飄々としている。妹のサラが出ていっても、言葉の通じる動物たちがいるから全然さみしくない。自分にとっていちばん大事だと思えることを、いちばん幸せにしたい家族と為すことができる先生は、たぶんこの世の誰より満たされている。

 サルのチーチー。アヒルのダブダブ。犬のジップ。豚のガブガブ。フクロウのトートー。いわゆる“動物モノ”に興味のない人でも、先生の家族の愛らしさにメロメロになってしまうのは、彼らが決して人間の都合では動かないからだ。彼らは彼らなりの道理で生きている。わがままも言えば、喧嘩もする。だけど自分たちのために苦労を厭わない先生のためなら、手分けして家事を分担し、能力の限りを尽くして役に立とうとする。相手を思い合う優しさの連鎖で様々な冒険を切り抜けていく過程に、私たちは喜びと興奮を手に入れる。

 第1巻はタイトルどおり、伝染病にかかったサルたちを助けるため、船に乗ってアフリカまで旅するお話だ。途中、ジョリギンキ王国で牢屋に入れられたり、ポリネシアの機転で王子を催眠術にかけたり、海賊のベン・アリに襲われたり、とある男性を風から漂うにおいだけで見つけだしたり。読みはじめたら最後までノンストップで駆け抜けること間違いなしの冒険譚だ。

 新型コロナウイルスの影響で残念ながら公開日が延期されてしまったが、2巻以降(※)の物語をくみこんだ映画『ドクター・ドリトル』を観る前に、ぜひ行間の隙間からあふれ出るわくわくに触れて、ドリトル先生と一緒に旅してほしい。

文=立花もも

(※)2020年夏、第2巻の『ドリトル先生航海記』(仮題)が刊行予定。

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