「不幸の手紙」よりもっと恐ろしい手紙。謎の連続撲殺事件を生み出した恐怖の連鎖

文芸・カルチャー

2020/4/5

『棒の手紙』(折原一/光文社)

「○日後までにこの手紙を○人に送らないと、あなたに不幸が訪れます」
そんな文言がしたためられている手紙やメールを受け取った経験がある方は多いのではないだろうか。自分のもとで止めてしまっても、きっと何も起こらないだろうと思っても、なんとなく気味が悪く、知人に転送してしまった…という人もいるかもしれない。『棒の手紙』(折原一/光文社)は、そんな“迷惑な手紙”を題材にした、ミステリー小説だ。
 
 ただ、不幸の手紙とは大きく違う点がひとつある。それは、手紙を止めた場合に訪れるのが「不幸」ではなく「棒」だということ。棒が訪れる…? 果たしてそれがどんな奇禍を意味するのか? そう気になってしまったら、もう最後。あなたはいくつもの謎が何層にも練り込まれた“折原ワールド”から抜け出せなくなる。

突然届いた「棒の手紙」が撲殺事件を呼ぶ…

 ある日、水原千絵は差出人が記されていない、1通の手紙を受け取った。

“これは棒の手紙です。この手紙をあなたのところで止めると必ず棒が訪れます。二日以内に同じ文面の手紙を五人に出してください”

 筆跡が妹・百絵のものであると感じた千絵は、こんないたずらをしないでという非難の気持ちを込めて、百絵と、そして過去に不快感を与えられた5人の人物に対して、ちょっとした復讐のつもりで手紙を送ることにした。

 そのひとりとして選ばれたのが、近所で札付きのワルである竹本肇。竹本は母親からの愛情不足を他人に暴力を振るうことで埋め合わせてきたような人間。17歳になった今ではバイクを乗り回し、自由に遊ぶ日々を謳歌していた。

 手紙を受け取った竹本は文面に脅しつけるような力を感じ、自分も5人に同様の手紙を送ろうと考えたが、結局断念する。すると後日、しゃがれた声の人物から「手紙を出したか」と確認する電話がかかってきた。

 刻限までに手紙を出さないと、棒が来るぞ――そう忠告を受けた竹本は手紙を書こうと決心したが、残り1通を出す相手が思いつかないまま時間切れに。すると、「棒」を名乗る人物が現れ、撲殺されてしまった。

「棒」は、竹本や千絵が手紙を送った人物に次々と襲い掛かり、それは連続撲殺事件として報道される。それに興味を示したのが、ルポライターの高畑良介。高校の同級生が同様の手紙を受けとった後に撲殺されたことを機に、「棒」による一連の事件を解明し、そして自分の仕事のステップにしようと考えたのだ。

 良介は千絵と協力し、ある罠を仕掛けて「棒」を名乗る人物をおびき出すことに成功する。だが、そう単純に問題解決しないのが折原ワールドの深み。なんと、「棒」を名乗っていた人物すらも「棒」に襲われて殺されるという展開で、謎が謎を呼び深まっていくのだ…。

 一件落着したかのように見せかけ、実はその先にもまだ巧妙な謎が隠されている。折原作品の醍醐味は、ここにある。本作以外にも読者の思考をかき乱すような折原ミステリーは、他にも数々刊行されている。興味を持った方には、実際に起きた事件をもとにした『逃亡者』や『追悼者』といった「○○者」シリーズもおすすめ。他作品のストーリーも参考にしながら、ぜひ本作の結末を予想してみてほしい。

 なぜ、訪れるのが「不幸」ではなく「棒」なのか――。この謎の奥にある“理由”を知るとき、あなたは思わず唸ってしまうはずだ。

文=古川諭香

この記事で紹介した書籍ほか