借金8000万…相続放棄ができない事例も。「相続法の改正」で、何が変わったのか?

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2020/4/10

『最強の相続』(荻原博子/文藝春秋)

 新型コロナウイルスの患者が世界中で増加傾向にあるが、若年層より高齢層のほうがより死亡するリスクが高いと報告されている。すでに高齢化社会に突入している日本も他人事ではなく、冗談抜きで肉親と突然の別れを迎えることもありうるのだ。そこでキチンと考えておかねばならないのが「相続」の問題。『最強の相続』(文春新書)では経済ジャーナリストの荻原博子氏が、難しいと思われがちな「相続法」を分かりやすく解説してくれる。

 実は最近、法律が大きく変わってきている。民法は120年ぶりに改正され、本書で取り上げる相続法も約40年ぶりの改正が行なわれているのだ。本書ではさまざまなアプローチで相続について解説しているが、この改正部分も含めて相続に関して押さえておくべきことをまとめてみよう。

相続において、まず何をすべきかを知っておくべし

 当然のことだが、相続について知らなければ対処のしようがない。親が亡くなれば相続が発生するのは分かるが、ではその後、何をすればよいのか。まずは亡くなった人がどれくらいの財産を有しているか、それを調べることだ。相続税のかかる財産は現金や有価証券といった「動産」や、土地や建物の不動産など「金銭」に見積もることができるもの。そういった財産をしっかりと調べていくことが必要だ。適当に申告して「漏れ」などがあったりすると、後で税務署から指摘を受け、悪質な場合は「刑事罰」に処されることもあるので気をつけたい。

相続法の改正で、いったい何が変わったのか

 本書によれば、約40年ぶりの「相続法大改正」において目玉となるのは「配偶者居住権」であるという。ではその「配偶者居住権」とはどういうものか。例えば両親と子供が疎遠で離れて暮らしている場合。父親が亡くなって家が残され、母親と子供が相続することに。子供は家を売って現金化したいと考え、現実にそうなった場合、家を失った母親が後々の生活で苦労するというケースがこれまでは多く見られた。しかし「配偶者居住権」により、母親は現在住んでいる家に住み続けることができる権利を保障されたのである。家に住み続けたいという配偶者の意思が尊重されるという点が非常に大きな改正なのだ。

知っておきたい「節税」のテクニック

 相続が発生すれば「相続税」もついてくるというのは、誰もが持つ発想だろう。しかし本書によれば「相続税が課税されるケースは全体の8%程度」だという。なぜかといえば相続税には「3000万円」の基礎控除があるから。さらに相続人ひとりにつき「600万円」が加算されるので、最低でも「3600万円」以上の財産がなければ課税対象にはならないのである。多くの財産がある場合でも、「生前贈与」をうまく活用すれば節税が可能。実は贈与には「ひとり当たり年間110万円の基礎控除」が存在する。つまり生前から相続人に対し「年間110万円」を送り続ければ、それだけで節税になるのだ。ただし、贈与となるのは亡くなる3年より前の分であることに注意したい。

多彩な実例で楽しく相続法を理解できる

 本書は上記のような相続法の基本知識やテクニックのほか、多くの実例が示されているところにも特徴がある。

 例えば「連帯保証」に関する、怖い事例。ある家族の父親が亡くなり、3人兄弟が相続することに。しかし葬儀から3ヶ月後、銀行から父親が連帯保証人のため、8000万円を支払うよう連絡が届くのだ。3人はマイナス資産の相続となるので「相続放棄」を決めるが、実は相続放棄ができるのは「相続を知ってから3ヶ月以内」と定められているのだ。つまり銀行は相続放棄を防ぐため、3ヶ月経ってから連絡をしてきたのである。結局、3人は銀行と談判の末、多少の債務減額に成功したが、負担を負うことになってしまった。故人の債務は生前に確認しておいたほうがよい、というお話。

 このように具体例を示すことによって、相続を体験したことのない人でも分かりやすく相続法を学べることが、本書最大の強みだといえる。

 相続は他人事ではない。本書は相続について実例と図解を交えながら、分かりやすく教えてくれる。しかし本当に相続と向き合えるかどうかは、我々次第だと思う。私自身、母親が亡くなってようやく、その考えにたどり着いた。今は兄と協議しながら、父親に現有財産を確認するリストを作成中だ。本書で荻原氏は「最強の相続は、円満解決できること」だと述べている。正しい知識を身につけ、キチンと相続に向き合う。これこそが「最強の相続」に向かう第一歩なのだと思うのである。

文=木谷誠

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