あれ? パンから鼻や足が…パンを愛する“パンどろぼう”が迎えた衝撃展開とは…?

文芸・カルチャー

更新日:2020/5/12

『パンどろぼう』(柴田ケイコ/KADOKAWA)

 パンの中に潜む、怪しいパン…。そんな衝撃の1枚からスタートする物語。え? パンのはずが、ちいさなお鼻が出ちゃってる? まあまあまあ。『パンどろぼう』(柴田ケイコ/KADOKAWA)は、どこか憎めないかわいらしいパンどろぼうのお話です。

愛すべきキャラクター「パンどろぼう」参上!

 巧みなワザでパンをぬすんで持ち帰り、うれしそうに食べるパンどろぼう。おいしいパンを食べるのが大好きで、ドアの形もテーブルもソファも、部屋の中はパンだらけ。でも「いただくときはかんしゃをこめて」なんて、ちょっと律儀な一面もあるみたい。それに、パンを食べるときの幸せそうな顔といったら! どろぼうをするのは良くないけれど、どこか憎めない。

パンどろぼうから目が離せない

 気になる行動で、目を惹きつけるパンどろぼう。今度は「せかいいちおいしい もりのパンや」でパンをいただく作戦。そうっとお店に忍びこみ、かくれみの術や、早足の術を繰り出す。ずらっと並んだパンのどこに、パンどろぼうは隠れている? 「ぱんだパンの中かな」「しろくまパンも気になるよ」などと寄り道しながら探してみよう。

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なんと、まずかった!

 ここから物語は急展開。あんなにおいしそうに見えたパンが、こんなにまずいなんて! パンを愛するパンどろぼうは、「世界一おいしい」はずのパンがまずかったことが許せない。自分の悪事は棚に上げて、パンやのおじさんに説教をする。けれど、「盗みはいけないよ」とおじさんから諭されて…。

「ごめんなさい」と言えるかな

 パンへの愛情は誰にも負けないパンどろぼう。「おれはパンじゃない! パンどろぼうだ!」と正体を明かすときの姿は、どろぼうなのにまるでヒーローのように誇らしげですごくかっこいい。パンやのおじさんから諭されたときも、神妙な顔つきにはなるけれど、ちゃんと「すまなかった」と言えたところがかっこいい。

 パンどろぼうはどうして怒ったの? どうしてあやまったの? 子どもがきっと聞いてくる質問に、親はしっかりと答えてあげたい。子どもたちは、パンどろぼうと同じように、悪いことをしたときには「ごめんなさい」と言えるかな。

最後まで見届けたい。パンどろぼうの行く末は?

 著者・柴田ケイコさんの描く絵本は構図がおもしろく、絵や展開に意外性があって、大人もまたハマってしまう。特に、ぬすんだパンがたまらなくおいしそうで思わず抱きしめる幸せMAXの状態から、まずくてどん底に落ちるまでの落差を大胆に描いたページは、何度見ても大笑い。パンが大好きで、しかも正直者のパンどろぼうの本音が見事に伝わってきて、惚れ惚れしてしまう。

 ご自身でも読み聞かせ活動をしているという著者ならではのテンポの良さで、読み聞かせしやすく、絵本入門者にもうってつけ。子どももグングン物語の中に入っていけるはず。

 パンどろぼうは、好きなことをとことん貫くところやイタズラっ子なところが子どもっぽくて、我が子を見ているよう。表情豊かで、パンを抱きしめる姿は本当にかわいくて、見ているほうまで心がぽかぽか。愛されキャラのパンどろぼうに、うちの親子はすっかりファンです。きっと、パンどろぼうのまねをして、「ごめんなさい」をちゃんと言える子になってくれるはず!

 エンディングにも思わぬ展開が待ち受けているので、ぜひ最後まで見届けたい。パンどろぼうが頑張る姿に、こちらまで清々しい気分になれるし、パンがもっと好きになっちゃいそう。パンどろぼうの、激動の人生ならぬ“どろぼう生”が描かれた豊かな物語に注目を!

文=麻布たぬ

『パンどろぼう』作品ページ▶︎https://www.kadokawa.co.jp/product/321909000681/