禁断の手術に未来予知のような符合──漫画が封印されるのは、一体なにが原因なのか?

マンガ

公開日:2020/5/5

『封印漫画大全』(坂茂樹/鉄人社)

 漫画は日本が世界に誇る文化であり、現在も多くの漫画が人々に親しまれている。そして「漫画の神様」と呼ばれた手塚治虫先生など、すでに亡くなられた作家の作品も「復刻」という形で再販され、今も読むことが可能だ。しかしすべての作品が読めるのかといえば、そうではない。中にはさまざまな理由で「封印」された作品も存在するのだ。『封印漫画大全』(坂茂樹/鉄人社)は、実際にどのような作品がどういった経緯で封印されたかを詳しく紹介している。

 先に述べた通り、封印される理由はさまざまに存在する。本書に紹介されている作品から、その封印理由が何だったのかをいくつか取り上げてみよう。

描かれたテーマが結構ヤバい──『ブラック・ジャック』(手塚治虫)

 手塚先生の代表作のひとつであり、医療関係者の中にも影響を受けた人が多いといわれる『ブラック・ジャック』。現在までさまざまな形で出版されているが、その中で封印されたエピソードが存在する。それは第28話「指」、第41話「植物人間」、第58話「快楽の座」である。それぞれ紹介すると長くなるので、ここは「快楽の座」に絞っていこう。このエピソードは、本書の著者いわく「ロボトミーの是非を題材にしたもの」だったという。ロボトミーとは脳の外科手術で精神疾患を治療しようとするものだが、患者の人間性を強引に奪うことなどが非人道的だと非難されている。もちろん手塚先生も反対のスタンスで描いているのだが、結果としては現在に至るまで封印は解かれていない。

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著作権問題で絶版──『キャンディ・キャンディ』(原作:水木杏子/作画:いがらしゆみこ)

 漫画界では著作権問題が取り沙汰されるケースがよく見られるが、その中でも有名なのが『キャンディ・キャンディ』だろう。アニメも大ヒットした作品で、観たことはなくとも堀江美都子の歌う主題歌を聴いたことのある人は多いのでは。しかし現在、原作漫画は絶版となり、アニメも再放送やビデオグラム化は不可能な状態だ。なぜそうなってしまったのかというと、それは原作・水木杏子氏と作画・いがらしゆみこ氏の関係によるところである。1995年にいがらし氏と日本アニメーションの間でアニメ版のリメイク話が持ち上がるが、後に続編へ変更。原作の水木氏が「すでに完結したもの」としてこれを拒否した。この後も多くの問題があり、争いはついに法廷へ。結局、裁判は水木氏の勝訴となり、原作者の同意なしに営利目的の使用はできなくなった。こういった経緯から、漫画が復刻されるかどうかは、神のみぞ知るところである。

タイミングが悪かった──『MMR マガジンミステリー調査班』(石垣ゆうき)

 リーダー・キバヤシの主張に隊員たちが「な、なんだってー!」と驚愕するシーンが有名な『MMR マガジンミステリー調査班』。さまざまな超常現象をMMRが調査し、秘められた謎に迫っていくSFミステリーである。単行本は全13巻だが、連載の中で単行本未掲載のエピソードが存在する。それがMMR第13弾「甦るノストラダムス 暗黒新予言!!」だ。内容を簡単に説明すると、ノストラダムスの予言を調べていたMMRは、その内容を「サリンを用いた瞬間大量虐殺が画策されている」と解読。キバヤシは「地球全体が死臭に覆われたガス室と化してしまう!!」と力説するのだ。このエピソードは1995年の1月に掲載されたが、この2ヶ月後、あの「地下鉄サリン事件」が発生してしまう。結果として超リアルなエピソードとなったため、封印されてしまったのである。

 封印作品というものは、時代によって変わっていく。ある日突然「規制」が始まり、過去の作品まで対象が広がっていくこともあれば、問題がクリアされ、封印が解除されるケースもあるのだ。個人的には解除されてほしい作品は多々あるが、そう簡単にいかないだろうということも、重々承知なのである。

文=木谷誠