二人のアウトロー作家が読者の悩みに答えながら、波瀾万丈な人生を歩む!『愛してるよ、愛してるぜ』

文芸・カルチャー

2020/5/20

『愛してるよ、愛してるぜ(中公文庫)』(安部譲二、山田詠美/中央公論新社)

 街中で知らない人たちの会話を耳にしたとき、私たちは何も思わず通り過ぎるだろう。会話の内容が惹きつけられるものでなければ。

 作家の安部譲二さんと山田詠美さんの対談集『愛してるよ、愛してるぜ』(中央公論新社)は、気心の知れた旧友たちの会話のようだ。豊富な人生経験のある二人だからこそ、私たちはその言葉を素通りすることはできない。

 若手の作家たちが影響を受けた人物としてこぞって名前を挙げる山田詠美さん。1985年にデビューして以来、ファンの心を離さず魅力的な小説を発表し続けている。そして小説の登場人物と同じように、山田さん自身も波瀾万丈な人生を送っている。

 対する安部譲二さんの人生は「波瀾万丈」という言葉だけでは足りないほど濃密だ。元ヤクザで逮捕歴もあり、生涯で9人の女性と結婚したと、以前安部さんは雑誌のインタビューで話していた。40代で極道の世界から足を洗い、作家としてデビュー。テレビタレントとしても活躍した。2019年に亡くなったが、この対談集を読んでいると、安部さんが今も東京のバーや居酒屋で山田さんと楽しくお酒を飲んでいるのではないかと思ってしまう。

 安部さんが山田さん宛に送った葉書や手紙には、いつも冒頭に「詠美さん、おれの親友」と書かれていたそうだ。山田さんは嬉しく思いつつもこの表現に照れていたようだが、本書を読むと、安部さんがそう言った気持ちがよくわかる。

 この二人の作家はまさしく親友なのだ。だからこそプライベートな内容の話もできる。

 読んでから気づいたのだが、安部さんと山田さんは二十歳以上の年の差がある。信じられなかった。

 本書のもともとのタイトルは『人生相談劇場』だったが、文庫化にあたり改題された。その名のとおり章ごと(作中では第一幕、第二幕…と書かれている)の冒頭に読者が送ってきた悩み相談が記されている。二人の対談は悩み相談とは関係のなさそうな雑談から入ることが多い。山田詠美さんがこの対談の期間中に結婚し、安部譲二さんが顔を合わせたことのない相手と恋に落ちたことなど、リアルタイムで二人の日常を知ることができる。

 世界一オープンな対談とも言えるこの会話を、文章にした島崎今日子さんもあえて省かなかったのだろう。おかげで私たち読者も二人の会話のスパイスをそのまま味わえる。

 悩む読者に対しての回答は、模範解答とかけ離れている。それなのに類まれな人生経験を持つ二人の作家の口から出てくるのは、読者全員が自分ごと化できる言葉ばかりなのだ。

“この女の子に必要なのは、発想の転換だよ。幸せになるには、いろんな道があるんだよ。”

“私も転校生のいじめられっ子で、そのときは本に逃げ込むことしかできないと思っていたけれど、何の役にも立たないと思ってたその読書体験が今に繋がってる。本読んでいて、絶対に悪いことない。”

 思いもしない出来事に遭遇して悩んだとき、この本を再び読みたい。角度を変えて自分の悩みを見据えることができるはずだ。

文=若林理央

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