ゴマの種ってどんな形? 身近な加工食品の“真の姿”を追う『育ちすぎたタケノコでメンマを作ってみた。』がおもしろい!

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公開日:2020/6/6

『育ちすぎたタケノコでメンマを作ってみた。』(玉置標本/家の光協会)

 毎日何気なく口にしている、多種多様な食品。たとえば、サラダにトッピングされている「ゴマ」や、寿司桶の端でマグロや鯛の寿司を引き立たせる、かんぴょう巻の「カンピョウ」。私たちの食卓は、定番であっても加工前の姿が想像しにくい加工食品であふれている。先日発売された『育ちすぎたタケノコでメンマを作ってみた。』(玉置標本/家の光協会)は、そんななんとなく食べている食品に焦点を当てている。

 著者の玉置標本氏が娯楽サイト「デイリーポータルZ」に公開している食材採取シリーズの記事を再編集してまとめた本書。前半はベランダ栽培や家庭菜園で野菜を育て、後半は河原や公園で野草や木の実を採ってくるという二部構成になっているが「○○本」とカテゴライズできない、なんとも不思議な一冊だ。以下が、著者によるこの本の説明にあたる。

「育てたり採ったりするだけではなく、薄い知識と想像力で挑む食品加工の試行錯誤がメインとなっている話も多い。
 そんな感じの本なので、野菜の育て方や野草の食べ方が書かれたハウツー集ではないことをしっかり断っておく。あくまで私が初めて経験したこと、感じたことの記録でしかない。」

 そして、すべては彼の好奇心からはじまる。たとえば、「サッポロ一番塩らーめん」に別添されていた「ゴマ」を見て「ゴマって、なんだっけ」という疑問から、ゴマの栽培がスタート。取り寄せたゴマの種を見てみると、そこに入っていたのはまぎれもない「ゴマ」だった。

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 著者も「ゴマの種はゴマであるという、ある意味当たり前のことに気がつく」と綴っている。とはいえ、ゴマの種がゴマである事実を即座に答えられる人は、意外と少ないのかもしれない。ベランダのプランターに種を蒔き、ゴマの芽が出てキレイな花が咲き、収穫までに約2カ月かかった。あんなに小粒で、メインのおかずになんとなく添えられているゴマは、収穫までに2カ月かかるのだ。

 さらにたくさんのゴマを収穫するために、畑での栽培にも挑戦する。たくさん収穫できたはいいものの、食べられるのはごく一部で、そのほかは大量のゴミになってしまうそう。ゴミの中から食べられるゴマをピンセットで分別する作業がもっとも大変だったと語る。

「こうしてチマチマ分別しているのが、砂金でもダイヤの原石でもなく、一袋100円とかで売っているゴマだと思うと、私の今やっている作業は時給いくらなんだと悲しくなる。それはもう切なさがすごい。世の中のゴマってもっと高くていいよ。」

 著者のやるせなさが伝わってくる一文だが、もちろん苦労の先にある“おいしさ”も、また格別。サッポロ一番塩らーめんにゴマを足したり、ほうれん草にゴマを和えたり、果てはバニラアイスにまでゴマをふりかけたりしていた。自作の醍醐味が味わえるのだ。

 ゴマに限らず、同書に登場するさまざまな食材は、実際に食べるまでかなり時間がかかるものが多い。「コンニャク」は、収穫までに7カ月、加工するにもかなりの手間隙がかかっていた。河原に生えている「カラシナ」を採取して粒マスタードに加工する場合も、葉についた虫との熾烈な戦いが待っている。

 この『育ちすぎたタケノコで、メンマを作ってみた。』は、試行錯誤と発見が詰まった玉置氏の冒険譚といっても過言ではない(と思う)。読み終えたあとに「農家のみなさん、食品加工業のみなさん、本当にありがとう」と、感謝の念を抱かずにはいられないはずだ。

文=とみたまゆり