真実を語るのは、母親か? それとも教師か? 実際の事件を基に描かれた非情な漫画『でっちあげ』

マンガ

公開日:2020/7/14

『でっちあげ』(イラスト:田近康平、企画・原案:福田ますみ/新潮社)

「嘘」や「デマ」は、情報過多の時代を生きる僕らにとって脅威でしかない。一方向の情報だけを鵜呑みにする人達によって拡散されたそれらは、「虚構の真実」へと変貌を遂げ、人々の頭に刻み込まれる。そして多くの人が、真実を探ることをやめるだろう。これほど怖いことはないにもかかわらず。

 本書『でっちあげ』(イラスト:田近康平、企画・原案:福田ますみ/新潮社)は、2003年に福岡市で実際に起こった「教師によるいじめ事件」をもとに描かれた作品であり、「嘘やデマを鵜呑みにする怖さ」や「“疑うこと”の重要性」を説いている。まさに、今最も読むべき作品だ。

 本書は、沢渡秀二の家に、担任の杉谷誠が家庭訪問をするシーンから始まるのだが、事態はすぐに急展開を迎える。母親との会話の中で、秀二に外国の血が混ざっていることを知った杉谷は、秀二を「穢れた血」と差別し始める。これが秀二への仕打ちの始まりだった。

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 ある日、顔が傷だらけの状態で帰ってきた秀二。そんな姿を目の当たりにした両親は、杉谷を担任から外してもらうよう訴える。しかし、秀二への仕打ちは止まらなかった。そして、秀二は自殺未遂を起こしてしまう……。一命はとりとめるも、彼の心には深い傷が残ってしまった。

 一方、杉谷はこの事件で懲戒処分が命じられた。週刊誌には本名を晒され「史上最悪の殺人教師」と呼ばれるようになり、訴訟問題にまで発展してゆく。誰もが杉谷の行為に憤慨し、それ相応の刑罰が下るだろうと言われていた。

 ただ、裁判で彼が発したのは、誰もが驚く言葉だった。傍聴席もどよめいてしまう。

沢渡さんは嘘をついています
全ては、沢渡さん……そしてその周りの方達の……でっちあげです

 僕はこの瞬間、鳥肌が立った。そして物語は、予想だにしない展開を迎える。

 本書の前半は、母親の視点で杉谷の猟奇的な言動が描かれている。中でも、秀二に対する仕打ちのシーンや自殺に追い込むまでの流れは、とても非情で残酷だ。きっと読み手側も眉をひそめるだろう。杉谷の行動に怒りを覚える人もいるはずだ。

 ただ注目するべきなのは、これらの情報はすべて、母親から知り得たものにすぎないということだ。現に後半からは、杉谷の視点で事件が起こるまでの日々が描かれてゆく。秀二の母親の話を「全てでっちあげだ」と述べていることからも、何かしら食い違いがあるに違いない。

 何がどのように違うのか。もし秀二の母親の話がでっちあげだったとしたら、なぜ存在しない事件は作られてしまったのか。真実を知りたい方は、ぜひ本書を手にしてじっくり読んでいただきたい。

 昨今、世界を震撼させているコロナウィルスにおいても、たくさんの嘘やのデマが出回っている。これからも多くの嘘やデマが流れるし、それらがなくなることはないだろう。ただそんな時こそ本書を読んでほしい。嘘やデマの怖さ、一度疑ってみることの重要性を、改めて実感できるはずだから。

文=トヤカン