大人気「ビブリア古書堂」シリーズ最新作! シリーズの新たなる幕開けは横溝正史の幻の作品をめぐる物語

文芸・カルチャー

公開日:2020/7/22

ビブリア古書堂の事件手帖II ~扉子と空白の時~
『ビブリア古書堂の事件手帖II ~扉子と空白の時~』(三上延/メディアワークス文庫/KADOKAWA)

 古書マニアの美しき古本屋店主・篠川栞子が、深い知識と鋭い洞察力で本にまつわる謎を鮮やかに解き明かす――。

“古書ミステリー”というジャンルを打ち立て、社会現象とも呼べる大反響を巻き起こした「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズ。栞子が、ビブリア古書堂の従業員であり恋人でもある五浦大輔と結ばれる第7巻(『~栞子さんと果てない舞台~』)で、シリーズはひとまず落着。2018年に発売された『ビブリア古書堂の事件手帖 ~扉子と不思議な客人たち~』では愛娘・扉子が誕生していて、物語世界の中で着実に時間が流れていることを感じさせた。

 そして今夏、待つこと久し、待望の最新刊『ビブリア古書堂の事件手帖II ~扉子と空白の時~』(三上延/メディアワークス文庫/KADOKAWA)が発売される。

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 まず驚くのはプロローグだ。

 前作では6歳だった扉子が、なんと高校生になって登場している。母・栞子に生き写しの容貌に加えて、本を愛する性質も受け継いだ扉子。父・大輔が書き綴っているビブリア古書堂で起きたさまざまな事件の記録を彼女が読んでいくという構成で、3つの話が展開される。

 本シリーズの醍醐味のひとつは、毎回いろいろな本や作家がとり上げられていることだ。過去にも多くの絶版本や知られざる佳作・秀作にスポットを当てる一方で、誰もが知る文豪を再検証したりと、ビブリア(本を愛する人)的な試みがたくさんされてきた。

 今回俎上に上げられるのは、江戸川乱歩(ちなみに乱歩は第4巻『~栞子さんと二つの顔~』で扱われている)と並ぶ日本を代表する推理小説家、横溝正史だ。それも1冊まるまる横溝正史ザ・ワールドとなっている。

 発端は2012年。栞子と大輔が結婚して半年経ったビブリア古書堂に、ある依頼が舞い込むところから始まる。

 横溝正史の幻の作品『雪割草』を所有していた、元華族に連なる旧家・上島家の女当主、上島秋世。彼女の死後、その『雪割草』が忽然と消えてしまい、秋世の妹である双子の次女と三女は互いに相手が盗んだと主張しあう。戦前から続く地元の名家、複雑な家族関係、いがみあう双子の姉妹…。横溝小説さながらの舞台で栞子は『雪割草』の行方を調べる(第一話)。

 それから9年後の2021年。小学3年生の扉子は、読書感想文で書く本に横溝正史の『獄門島』を選ぶ。古本屋に取り置きしておいた『獄門島』を買いに大輔と一緒に訪れるが、その本は一足早く誰かに買われてしまっていた…(第二話)。

 第二話からひと月後、9年ぶりに上島家から連絡を受ける栞子と大輔。『雪割草』にまつわる事件が再び起こり、力を貸してほしいと依頼される。9年前、すべての謎を解決できず悔いの残る形で終わってしまった『雪割草』事件に、栞子は再度挑む(第三話)。

 2018年に刊行されて大きな話題となった横溝正史の長編小説『雪割草』と、金田一耕助ものの代表作『獄門島』。ミステリー界の巨人が遺した対照的なこの2作に隠された秘密に栞子は迫り、上島家の因縁を解きほぐそうと尽力する。

 娘の扉子視点という次世代の目を通して、新シリーズがいよいよ始動。従来のファンも新たな読者も惹きつけてやまない趣向とともに、本を読むことの快感と感動、そして楽しさがたっぷりと詰め込まれている。

文=皆川ちか

『ビブリア古書堂の事件手帖II ~扉子と空白の時~』作品ページ
https://biblia.jp/