美人で冷静沈着な経理担当者は、家ではフニャフニャの女の子でした。ギャップ萌えが過ぎる! 『経理の夏谷さんはガマンできない』

マンガ

公開日:2020/8/17

経理の夏谷さんはガマンできない
『経理の夏谷さんはガマンできない』(財政ろろ/芳文社)

 ギャップ萌えが過ぎる! 最初に読んだとき、率直にそう感じた。『経理の夏谷さんはガマンできない』(財政ろろ/芳文社)の話である。

 本作の主人公は経理業務を担当している夏谷さん。束ねた髪の毛にメガネ、背もたれに背をつけずキーボードをカタカタ鳴らす姿は、「美人でデキる女」を体現しているかのようだ。もちろん、それは格好だけではなく中身も伴っている。社員が提出する書類の不備は絶対に見逃さず、まるで氷のような表情でやり直しを告げる。しかし、そんな姿も彼女の魅力。社内にはファンが多く、ドSな夏谷さんとどうにかお近づきになりたいと画策する男性社員が後を絶たない。ただし、夏谷さんは仕事のできない男には滅法厳しい。声をかけてくる前に、やることをやれ。彼女の鋭い目線はそれを物語っている。

 そんな夏谷さんから特に怒られているのが、いつもぼんやりしていてミスを連発する男性社員・桜野。経費書類もまともに書けない桜野は、夏谷さんから「字が汚すぎて読めません。何が書きたかったのですかコレは」と詰め寄られる始末だ。

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 ところが、冷静沈着で「仕事の鬼」のような夏谷さんには、誰にも見せていない顔がある。それは帰宅すると「今日もほんまつかれたわぁ」と方言全開になり、途端にフニャフニャした女の子になってしまうところ。髪の毛を下ろし、メガネを外した夏谷さんは仕事中とは打って変わって無防備そのもの。ときには下着まるだしの姿が、まさにギャップ萌え。仕事中に見せている冷徹な表情はどこかへいってしまい、ただただかわいい等身大の女の子になってしまう様子がとにかく良い!

 このギャップ萌えは、マンガにおいてしばしば扱われる要素だろう。素の自分をうまく見せられない主人公が、読者の前でだけ素を見せる。それを「覗き見」しているような気分にさせられると、あっという間に読者は主人公のファンになってしまうのだ。

 ところが、本作はそれでは終わらない。ギャップ萌えを持っているのは夏谷さんだけではないのだ。では、一体誰が? それは夏谷さんの交際相手でもある、桜野だ。

 会社ではミスばかりしていて「頑張っているのに要領が悪い」と評される桜野も、実はプライベートではかなりデキる男。料理ができない夏谷さんに代わって、彼女が喜ぶ料理をあっという間に作ってみせる。しかも、やたらと夏谷さんを甘やかす、めちゃくちゃ良い男なのだ。

 第1話で夏谷さんと桜野の「秘密の関係」が読者に明かされるが、そのギャップ萌えがダブルで来た時点で、ぼくはこの作品に打ちのめされてしまった。夏谷さんも桜野も、どっちも魅力的じゃないか……!

 そして、ふたりが交際を秘密にしていることを知ると、社内でやたらと桜野にキツくあたる夏谷さんの態度にも合点がいく。周囲にバレたら大変なことになる。そう思っているから彼女は、桜野に少しでも気があることが察せられないように振る舞っているだけなのだ。

 第1巻のラストでは桜野に転勤の話が持ち上がる。それは桜野にとって、昇進にもつながる喜ばしい話。けれど、夏谷さんはガマンできない。大好きな彼氏と離れるなんて……。そこで彼女が見せる健気な姿は、悶えてしまうほどかわいらしい。そんなふたりがどうなってしまうのかは、ぜひ単行本で確認してもらいたい。

 ギャップ萌えマシマシで攻めてくる本作。夏谷さんも桜野もどちらも魅力的で、ついつい「応援したい欲」が刺激させられてしまう。ふたりの恋はどう落ち着くのか。その顛末を見届けたくなる、久しぶりに出合った胸キュンラブコメだった。

文=五十嵐 大