仕事も容姿も完璧! ただひとつ「料理」を除いては…。料理嫌いな人に共感度MAXのクッキングコメディ

マンガ

更新日:2020/8/21

すみれ先生は料理したくない
『すみれ先生は料理したくない』(大久保ヒロミ/ぶんか社)

 最もリアルな料理漫画キタ…! ハイスペック美人がピアノを弾き「めんどくせぇ~」と歌う『すみれ先生は料理したくない』(大久保ヒロミ/ぶんか社)が発売された。

 繰り返すが今一番リアルな漫画だ。なぜなら料理が好きな人だけでなく、料理がそれほど好きでないけれども料理とかかわらざるをえない全ての人にむき合っているからだ。

 どういうことかというと、本作は料理はするけど“好きじゃない”“うまくできない”人が、わかりみで打ち震え、共感し、涙を流してしまう物語だからである。

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 主人公は白雪すみれ。大きな一軒家に住み、子供たちにピアノを教え、上品で優雅でスタイル抜群のアラサー美女だ。彼氏は、いない。

 ごく普通に考えればハイスペックで誰もが羨む、幸せ一直線な人生…一般的な独身アラサー以上の女性たちからは共感されにくい、はずなのだが、ただひとつ違っていたのは…すみれは料理ができなかったのだ。それも一切…。

タイトル通り! できないから、料理はしたくない!

 大久保氏は『人は見た目が100パーセント』『節約ロック』(共に講談社)などを描いた人気漫画家。いずれもドラマ化されている人気作で、本作はその大久保氏自身の「魂の叫び」がこめられたという最新作。“料理したくない女性”の話である。

 白雪すみれは他人が羨む容姿端麗なピアノの先生だ。それだけではなく、子供思いで人当たりもよく、嫌味もなく同性に「結婚してほしい」と言われるほどで、非の打ちどころが見当たらない。そして家事も料理もカンペキだと思われていた…。

 ピアノの先生は優雅なイメージが強い。ピアニストは夢の世界に誘う仕事だから生活臭を感じさせるべきではない、とされている(らしい)。しかし現実はピアノの仕事を何個も掛け持ちしないとひとり暮らしで食べていくのにギリギリ…。すみれは1日に3つの仕事をこなし、ヘトヘトで帰宅する。ただイメージが仕事依頼に繋がるのも事実。見た目は期待に答えなければならない。そう、見た目だけは。

 そんなすみれが家で主に食べているのはコンビニ・スーパーの弁当、レトルト食品…。すみれは心で叫ぶ「料理が嫌いだ」「やりたくない」。うまいへた以前にやらないから、そもそもできるようにならないのだが。

 彼女は気持ちの整理をする時にピアノに座り、自作の曲を弾き歌う。すると“本物の心”が引き出される。

“仕事から疲れて帰ってきて~
また料理という仕事をして~
食べ終わってからも~
また洗いものという仕事~
仕事なのに給料は発生しない~…”
※「料理嫌い協奏曲第五番」(作詞作曲:白雪すみれ)より

 こうして今日も料理はしない。「30の女がこれでいいのか」と自問自答しながらも“本物の心”が勝つ。お菓子そのものや、ポテトのお菓子“じゃごりこ”とご飯をお湯で混ぜた“なんちゃってリゾット”を食したりする。これなら食器も洗い物もなく「レストランでディナーしたのといっしょ」だから。すみれの中では。

 本音をダダ漏れにしながらのリアルなクッキングライフが描かれていく。

簡単料理は簡単じゃない? 料理嫌いでも未来のために挑戦する姿に涙せよ

 繰り返すが、本作は料理は作るけど好きではない、うまく作れない人も共感できるリアルな物語だ。

 本作ですみれが参考にしているのが「キッチンお兄さんの簡単レシピ」。このアカウントのフォロワーは80万人以上。現実にもいくつか存在するような、このキッチンお兄さんのレシピを、すみれは毎回検索して作ってみる(正確には作ろうとする)。が、サラダでさえうまくいかない。

 すみれはピアノを弾き、歌う。

“辞書で調べろ~
「物事が単純で大ざっぱなこと」…
「時間や手間がかからないこと」~…”
“そのままかじって!
みずみずしいわ!
塩をかけてもまたおいしい~!
これが正真正銘の「簡単」よ~!”
“これが「サラダ」でいいじゃない”
※「真実の簡単サラダ協奏曲」(作詞作曲:白雪すみれ)より

“簡単料理”は世にあふれている。しかしそれらは、すみれにとっては簡単ではないようだ。レシピサイトやSNSをみるだけでは、うまく作れない…ああ、これリアルだ、と感じる人もいるだろうと思う。

 レシピサイトには「3工程であっという間」と書いてあった。それを読んだすみれは「“肉とじゃがいもと玉ねぎを切って水にさらす”ってすでに4工程じゃないの? じゃがいもの皮をむく工程は入らないの?」と憤る。適度に焼く、こんがりと焼くと言われても、いまいち分からないすみれ…。ちなみに私は電子レンジレシピですらうまくできあがらないので、彼女以下かもしれない…(涙)

 めんどうくさい、上手に美味しく作れない、ますます料理嫌いになっていく。だからといって完全に料理をしない、というのはなかなか難しい。出来合いばかりだと栄養が偏るし、塩分も気になるし、子供がいる家庭ならさらに…なのだ。

 悩み多き白雪すみれには、料理がそれほど好きでない全ての人が共感できるに違いない。

 なお、すみれは料理とともに恋にもチャレンジしていく。ただいくら美人で性格が良くても、料理ができないことが原因で残念な結果を迎えてしまう…。果たして恋愛と結婚の喜びの曲をピアノで奏でる日は来るのか。彼女の挑戦を、共感しながら見守ってもらいたい。

文=古林恭