5億人超が屋外で用を足している!? トイレ事情から暴かれる経済大国インドの暗部

社会

公開日:2021/1/25

13億人のトイレ 下から見た経済大国インド
『13億人のトイレ 下から見た経済大国インド』(佐藤大介/KADOKAWA)

 ユニセフとWHOの2015年の調査によると、インドの「トイレなし人口(屋外で用を足す人の数)」は約5億6425万人。この数字はインドの全人口の4割以上で、全世界の「トイレなし人口」の約6割を占める。

 一方でインドの携帯電話の契約者数は、2018年のデータだと11億件超。調査時期も違うので単純にはいえないが、「家にトイレはないけど携帯はあるし」という人もかなり多そうな状況だ。

 今や「経済大国になった」といわれるインドだが、実は今現在も世界トップの「屋外排泄大国」でもあるのだ。

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 ……というのは、角川新書の『13億人のトイレ 下から見た経済大国インド』(佐藤大介/KADOKAWA)のはじめに~第一章に出てきた内容だ。同書が面白いのは、こうしたトイレの問題が、インドの政治問題や社会問題、カースト制度の問題に結びつけて分析されていることだ。

 たとえば政治の問題。インドのモディ首相は2014年10月に「スワッチ・バーラト(きれいなインド)運動」を提唱。2019年には「屋外排泄ゼロ」の達成を宣言をした州や都市が100%に到達したとし、その運動の大成功を強調したが、著者はその裏側を暴いていく。

 都市から離れた村落に取材に行くと、村に1つ2つトイレはあっても、大半の人はトイレを使わず屋外で用を足している状況。またトイレの建設時は補助金がもらえるはずが、実際は受け取れない「もらえる詐欺」も横行していた。

 そしてその背景には、行政から警察まで汚職まみれのインド社会の実情があった。また書類上には記載があっても、現実には存在しない「ペーパートイレ」が、1つの州だけでも何十万件とあったのだそうだ。

 トイレを建設しない人や、屋外で排泄する人への圧力・差別のすさまじさも本書は描写する。屋外排泄中の人の写真がSNSで拡散される事例もあり、中には撮影者が地方政府の職員という場合や、撮影者に行政から報酬が渡される例もあるのだという。そして女性たちは屋外排泄を強いられることで多くのレイプ被害にも遭っている。

 こうした「屋外排泄をする人」への人権侵害的な扱いの裏には、日本の比ではない国民の経済格差や、カースト制度に関わる差別があると著者は分析している。

 たとえば下水道やトイレの清掃に関わる人の多くは、カースト制度の最下層の人たち。そこには排泄物という「不浄なもの」に関わる宗教上の抵抗感もあり、その仕事が最下層の人たちに押し付けられているのだ。しかも、金銭的にも衛生的にも非常に劣悪な状況で、だ。

 経済大国といわれる一方で、人口の約13%が1日1.9ドル(約205円)未満の極貧状態での生活を強いられていて、上位9人の大富豪の保有資産が下位半数人口の合計資産に相当するというインド。『13億人のトイレ』には「下から見た経済大国インド」との副題が付いているが、まさにその通りに、本書はインドの実態を社会の下層から描き出している。

文=古澤誠一郎

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