おうちごはんに疲れてしまった人へ。しんどいごはん作りを「もうちょっと」好きになるための処方箋

暮らし

公開日:2020/10/11

『本当はごはんを作るのが好きなのに、しんどくなった人たちへ』(コウケンテツ/ぴあ)

 こんなにも“やさしい”料理エッセイに触れたのは初めてだ。『本当はごはんを作るのが好きなのに、しんどくなった人たちへ』(コウケンテツ/ぴあ)を読み進めるたび、そんな想いが強くなり、心が救われた。
 
 本書を手掛けたのは、人気料理研究家のコウケンテツさん。おうち時間が長くなり家でごはんを食べたり作ったりする機会が多くなっているからこそ、作る側は「今日は作りたくない」という気持ちを抱えつつも、渋々キッチンに立つことが増えた。コウさんは「料理を作らなければならない」という苦しみを受け止め、キッチンに立つ時の心が今よりも晴れるようなアドバイスを贈る。

「ねばならない」から自分を解放してあげよう

 コウさん自身、以前は料理で愛情を伝えるのは当たり前、見た目も栄養バランスもよく、品数もできるだけ多くしなければならない…と思っていたそう。しかし、子どもが増えるとそれも難しくなり、段取りが思うように進まない日々にストレスや苦しさを感じるようになったそう。

 そうした中で気づいたのが、自分が求める理想像で自分自身を追い詰めていたという事実。これは、「できるだけ手料理を作らねばならない」「子どもに苦手な野菜をもっと食べさせねばならない」などと思いながらキッチンに立ち、「見えざるプレッシャー」と闘う私たちにも通じることだ。

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 たしかに、ちゃんと作って栄養面に気を配れたら素晴らしい。でも、完璧にできない日もあって当たり前。そんな日は「ねばならない」から自分を解放してあげてもいい。

 例えば、品数。必要な栄養素をその1食や1日できっちりと摂らねばならないと考えるのではなく、気持ちや時間に余裕がある時だけ副菜を作ればいいと考えたら、気持ちはかなり楽になるのではないだろうか。

 実際にコウさん宅でも、数日のごはんを振り返りながら「お肉系ばかりだったから今日は野菜系のおかずを入れよう」くらいのゆるさで考えているそう。野菜料理の代わりにきゅうりを丸ごと1本添えてよしとする日もあるのだとか。

 自分や家族にとってベストなスタイルとは何か。今ある常識をそんな視点から見直してみると、食卓がもっと楽しくなるかもしれない。

「手料理=愛情のバロメーター」じゃない

 親になると、「手料理=愛情」と考えてしまうこともある。だが、コウさんは手料理は愛情そのものではなく、余裕のバロメーターだと言い、毎日のごはんで愛情を伝えるには、手作りかどうかより、子どもが満腹になれたかに着目してほしいと語る。

 お惣菜でも外食でもレトルトでもOK。一緒に食べることができたら、なおよし。それだけでも愛情は十分伝わっているから大丈夫――コウさんのこうした言葉が、つい自分を責めてしまうあなたの心に届くことを願いたい。

しんどい日に役立つ「実用レシピ」

 今の世の中には、しんどい状況を変えて楽しい気持ちにさせてくれる“処方箋”のようなレシピが必要。コウさんはそう考えて、くたくたで料理が面倒という日にも役立つお手軽レシピもいくつか本書で紹介している。

 そのひとつが、レンジにお任せの「ベーコンチーズかぼちゃサラダ」。こちらは、メイン料理しか頑張れないという日にもおすすめ。


材料(2人分)
かぼちゃ…1/8個
ベーコン…2枚
クリームチーズ…40g
塩…少々

作り方
ワタと種を取ったかぼちゃを切らずにラップで包み、レンジで4分ほど加熱。切ったベーコンはキッチンペーパータオルに包み、耐熱皿にのせて、レンジで1分ほど加熱。温かいうちにすべてをざっくりと和える。

 キッチンバサミを使えば包丁いらずなのも、このレシピの良さ。この他にも「味付けを排除するレシピ」や「洗い物を排除するレシピ」なども収録されているので、ぜひしんどい日のお守り代わりにしてほしい。

 なお、本書は「食べる側の人」も手に取ってもらいたい1冊。家族の絆を考え直す時に、コウさんのメッセージを通して、「食」という観点から私たちの在り方そのものを見つめ直してみてほしい。

 家族と食を囲むこと自体を億劫にならないためにも、私たちはもっと自由に料理を楽しんでいいのだ。

文=古川諭香