33歳で子宮頸がん治療のため子宮と卵巣を全摘した作者による闘病エッセイのそのあと

マンガ

更新日:2020/10/14

さよならしきゅう そのあと
『さよならしきゅう そのあと』(岡田有希/講談社)

 身体の不調はほんの些細な兆候でも無視してはいけないのだ、ということを闘病ルポマンガ『さよならしきゅう』(岡田有希/講談社)から教わった。結果、なんの問題もなかったとしても無駄足だったと思う必要はない。大丈夫であることを確認するためにも医師にかかることは大事なのだと、続編『さよならしきゅう そのあと』を読んでも思う。

「生理不順があるくらいで検査に来てくれて良かった。若い人はなかなか来ない! そして手遅れになる!」という医師の言葉が響いた前作。ラストには、術後5年が経ち「普通に日常を過ごしています」と元気な様子が描かれていたが、普通というのは“元通り”ということでは決してない。

 たとえば子宮がないということは生理もなくなるということで、解放感を得る一方で「太るのもイライラするのも原因が見つけられない」という事実に衝撃を受けるさまには、たしかに私たちは便利に生理を言い訳につかっている……! とはっとさせられた。周期に従って、自然と痩せやすくなるなんてこともないと気づいた作者・岡田有希さんの〈厄介者だと思っていた生理から恩恵を受けてたなんて気付かなかったな~〉という言葉はけっこう重い、と思う。恩恵とも気づかないほど当たり前に機能していた身体の一部が失われるのが、病なのだ。

advertisement

さよならしきゅう そのあと

さよならしきゅう そのあと

さよならしきゅう そのあと

 他にも、岡田さんを大きく悩ませるのがリンパ浮腫。岡田さんは右足のリンパも切除したため、リンパ液が流れずに溜まりむくみが出てしまう。毎日欠かさずマッサージしても、右足だけ目に見えて太くなり、正座すると身体が傾いてしまうほどで、発熱することもある。重症化すると元には戻らなくなるらしく、そんな自分の姿に落ちこみ、外に出ることもできなくなってしまう人もいるだろう。病院で注意指導されるようになったのが2008年からというのが信じられないほど、深刻な症状だ。

さよならしきゅう そのあと

さよならしきゅう そのあと

さよならしきゅう そのあと

 岡田さんはリンパ浮腫専門の治療院を見つけてマッサージを受け、弾性ストッキングを購入することで快方に向かうのだけど、1足なんと3万円。ストッキングというからには伝線もするし、毎日のマッサージは続けなくてはいけない。他にも尿意を感じにくくなったり、仕事のチャンスが舞い込んでも以前のような無茶ができないために調整せざるをえなくなったり、病院通いが年に一度と頻度が減っても、2日に一度の貼り薬を怠ればてきめんに身体に不調が現れたり。それが、今の岡田さんにとって“普通”の日常だ。そのなかで、自分にとってなにがいちばん大切なのか。どうしても手放せないもの――家族との暮らしと仕事をどう継続させていくかを岡田さんは考え、できることを選択していく。その選択肢をできるだけ増やすためにも、ちょっとでも不安を感じたら医者にかかることが必要なのだろう、と思う。

 病におかされるということは、生きるか死ぬかの二択ではない。実父に癌が見つかり、完治をめざす自分とは異なり、治療が前提の生活が続くのだろう姿を見て、岡田さんは思う。それがその人の日常になるのであれば、できるだけ楽しいことを見つけて、普通に、ともに過ごしていきたいと。自分が病気になったときの参考になるだけでなく、身近な人がそうなったときの心構えや、生きるということそのものについて考えさせられる一冊である。

さよならしきゅう そのあと

さよならしきゅう そのあと

文=立花もも