ドラマ以上におもしろい!? 「不時着」「梨泰院」など韓国ドラマOST(オリジナル・サウンドトラック)の深淵なる世界

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更新日:2020/12/5

「愛の不時着」「梨泰院クラス」オリジナル・サウンドトラック

 韓国ドラマを観る上での楽しみは、キャストの魅力やストーリーのおもしろさだけではない。ドラマを彩る「音楽」の存在感も、韓国ドラマならではである。いわゆる主題歌や挿入歌、劇伴と呼ばれる劇中音楽も含めて韓国では「OST」(もちろん「オリジナル・サウンドトラック」の略だが、日本での使われ方とはちょっとニュアンスが違う)と総称されるドラマオリジナル音楽は、あっと驚くビッグネームが参加していたり、ドラマに出演している俳優が意外な歌声を披露していたり、はたまたほぼOST専門といってもいいプロフェッショナルがドラマの世界をさらに広げていたり、なかなかに奥が深い。そもそも曲数自体が日本のドラマの挿入歌と較べても断然多いので、かなり具体的に「あのシーンのあの曲」というのが目に浮かぶのだ。ドラマを観ていても、観ていなくても楽しめること請け合いのOSTの世界について、音楽ライターである筆者が感じたところを書きたいと思う。

(本記事には、一部ドラマの内容のネタバレがあります)

「愛の不時着」オリジナル・サウンドトラック(キングレコード)

 まずは、なんといっても現在の韓国ドラマブームを牽引する「愛の不時着」。韓国ドラマではドラマの展開に合わせて順次挿入歌が発表されていくのだが、このドラマを象徴する1曲として最初にリリースされたのが、そのルックスと音楽性の高さから「韓国の星野源」なんていう異名もあるアーティスト10cm(シプセンチ)によるドラマのメインテーマ「偶然のような運命」だ。ジョンヒョクの目線でセリとの運命的な出会いを歌っている。

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「韓国の星野源」の異名もある10cm(シプセンチ)

 それと並んでドラマの大事な場面で流れるのが「Flower」。第1話で北朝鮮の村に迷い込んだセリをジョンヒョクが助ける、あの最初の胸キュンシーンで聞こえていた曲だ。歌っているのは韓国ドラマOSTクイーンと称されるユン・ミレ。「t」という名義でも活動していて、ラップもやるディーヴァだが、「Flower」では儚げな歌声で少しずつジョンヒョクに惹かれていくセリの心情を代弁している。彼女は「太陽の末裔」や「青い海の伝説」、そして「梨泰院クラス」などの名作ドラマでも美声を響かせているのでそちらもぜひチェックを。

Crush「二人だけの世界に行く」も名シーンを彩る名バラード

 そのほかにもアイドルグループWanna Oneの元メンバー・キム・ジェファンが歌うピアノバラード「ある日は」(第9話での軍事境界線またぎキスのあのシーン!)からWinkみたいな(古い)アイドルデュオDAVICHIによる「夕焼け」、韓国の演歌=トロットの歌手であるソン・ガインによる、わらべ歌のような懐かしいメロディがセリの北朝鮮での思い出を優しく包む「心の写真」など名曲ぞろいの「愛の不時着」OST。もちろん、ジョンヒョクがスイスの湖畔で弾いていたレクイエム「兄のための歌」をはじめ、歌モノではない劇中曲もすばらしいので、そちらもお聴き逃しないよう。

「梨泰院クラス」オリジナル・サウンドトラック
「梨泰院クラス」オリジナル・サウンドトラック(キングレコード)

 一方、よりストリートっぽいというか、今っぽい感じの楽曲が多いのが「梨泰院クラス」のOST。ドラマを観た人ならあの「ウォウ!」という掛け声を覚えているであろうロックな主題歌「はじまり」を歌っているのは弱冠23歳のシンガーGaho。彼はこの曲で一躍チャート1位を獲得し時の人となった。「耐えることで僕の夢はさらに強固になっていく」とセロイそのものみたいな歌詞もグッと来る。現在Netflixでも観ることができる「秘密の森」シーズン2のOSTにも「WISH」(ちょっとレディオヘッドみたいないい曲)で参加しているので、そちらも聴いてもらいたい。

 ほかにもスアのセロイへの気持ちを歌った「ただの友達なの?」(歌っているのは「私のおじさん」に提供した「Adult」で注目を浴びたSondia)、スケールの大きなロックサウンドが日本でいえばKing GnuっぽくもあるThe VANE「直進」など、多彩な登場人物とリンクするバラエティ豊かな楽曲たちが勢揃いしている「梨泰院クラス」のOSTだが、そのなかでも特筆すべきは、最終回のラストシーン、セロイとイソが肩を寄せ合いキスをする美しいシーンで流れた、アコースティックギターとバイオリンの音色が温かなあの曲だろう。ちょっとハスキーな声で歌っているのはなんと世界的グループBTSのV。彼の自作曲であるこの「Sweet Night」、ドラマで流れるやドラマファンからBTSファンまで巻き込んで大きな話題となった。この大物起用はセロイ役のパク・ソジュンとVのあいだに交友があったことから実現したようで、なんとも豪華で贅沢な使い方である。

 OSTに参加するビッグネームはVだけではない。「賢い医師生活」で1993年のヒット曲「華やかではない告白」をカバーしているキュヒョン(SUPER JUNIOR)、「太陽の末裔」の「Everytime」という曲で「OSTの妖精」ことPunchとのデュエットを披露しているチェン(EXO)、「イタズラなKiss」や「夜警日誌」など数々のOSTで歌声を聴かせてきたG.NAなど、K-POP界を代表する歌い手たちが「じつはあのドラマで歌っていた」というケースもじつに多い。それぞれグループやオリジナル作品とは違った側面を感じることもできるので、それもOSTの楽しみ方だ。

 また、日本のドラマでもたまにあるケースだが、ドラマの主演俳優が歌を歌っているパターンもある。「梨泰院クラス」のパク・ソジュンは「魔女の恋愛」や「キルミーヒールミー」で、「愛の不時着」のセリ役ソン・イェジンは「恋愛時代」で、そしてジョンヒョク役のヒョンビンは「シークレット・ガーデン」で、それぞれ歌声を聴かせているので、気になる方は探してみてはどうだろう。あと、俳優で歌手といえば現在「青春の記録」で日韓両方のファンをキャーキャーいわせているパク・ボゴム。自身のアルバムを出すほどの彼が時代劇「雲が描いた月明かり」で歌ったOST「私の人」はすばらしい名演なので、ぜひ聴いて欲しい。そうそう、「青春の記録」のOSTもSEVENTEENのスングァンやEXOのベッキョン、iKONのBOBBYなど錚々たるメンツが集結しているので、そちらもドラマと併せて要チェックです。

文=小川智宏

本稿で紹介した曲の一部をプレイリストで公開中