「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」シリーズ著者が最新作で描くのは、子供より子供っぽくておっちょこちょいの魔女先生!

文芸・カルチャー

更新日:2020/11/24

おっちょこ魔女先生 魔女修業は危険がいっぱい!
『おっちょこ魔女先生 魔女修業は危険がいっぱい!』(廣嶋玲子:作、ひらいたかこ:絵/KADOKAWA)

 累計140万部突破の「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」シリーズ。なんでも願いを叶えてくれるふしぎな駄菓子を売る店・銭天堂と、すもうとりのようにどっしり太った着物姿の店主・紅子が人気だが、「おっちょこ魔女先生」シリーズで著者の廣嶋玲子さんが描くのは、魔女の正体を隠して小学校の保健室につとめる乙千代子(おつ・ちよこ)先生、通称おっちょこ先生だ。

 通称からわかるように、先生はおっちょこちょい。3月に刊行された『おっちょこ魔女先生 保健室は魔法がいっぱい!』(廣嶋玲子:作、ひらいたかこ:絵/KADOKAWA)では、枕にかけるはずだった魔法がはねかえり、ハムスターになってしまったところを5年生のいさなに見つかるところから始まる。おっちょこ先生を助けるため、いさなは学年一の頭脳をもつ友達の千種と一緒に奮闘するのだが…。

おっちょこ魔女先生 魔女修業は危険がいっぱい!

 おっちょこちょいは、魔法のかけ違いにとどまらない。先生をもとに戻すため、いさなたちは魔物を集めないといけないのだけれど、そのために必要な情報をだいたい伝え忘れ、無駄に事が大きくなっていってしまうのである。それは最新刊『おっちょこ魔女先生 魔女修業は危険がいっぱい!』(KADOKAWA)でも同じ。そもそも先生がいさなたちに協力を求めたのは、師匠の大魔女に叱られたくないから、というなんとも子供っぽい理由なのだけど(いやだいやだとわめく姿も、いさなたちよりずっと子供っぽい)、けっきょくバレてしまったうえ、「なんで子供たちの記憶を消さないんだ!」と雷を落とされるというのが今作のはじまり。そこで「この子たちには魔女の素質があるから弟子にしようと思っていたんです!」なんてごまかすものだから、初耳のいさなたちは、望んでもいない魔女試験を突破するため、修業にあけくれることになるのである。

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おっちょこ魔女先生 魔女修業は危険がいっぱい!

 いや、わかる。叱られたくなくて、失敗をなかったことにしようとして、その場を取り繕ってどんどん事態を悪化させていくその感じ。おもしろいのは、それをやるのが小学生のいさなたちではなく、れっきとした大人であるはずのおっちょこ先生だということだ。廣嶋さん自身「ほんとに他人任せで、実際にそばにいたら腹が立つと思うんですけど、見ているとおもしろい。憎めないですよね」とインタビューで答えているが、魔女試験のまっさいちゅう、いさなと千種がめちゃくちゃに先生の愚痴を言いながらも愛情たっぷりな姿には、思わず笑ってしまう。

おっちょこ魔女先生 魔女修業は危険がいっぱい!

 でも考えてみれば、大人って意外としょうもなくて、子供のほうがしっかりしていたりするものだ。学年一のおてんばと、学年一の秀才。いさなと千種が力をあわせて先生のために問題を解決していく過程はハラハラしつつも頼もしく、読みながら「もー! 先生ってば!」と一緒に文句を言いながらもついつい笑ってしまう。さすがに今作のあの結末には「おいおい」と突っ込みを入れずにはいられないが、それもまたよし。

おっちょこ魔女先生 魔女修業は危険がいっぱい!

 なお、「銭天堂」シリーズの駄菓子で発揮されたネーミングセンスは今シリーズでも健在で、やかましく騒ぎ立てる「五月蠅」や人間にとりついて泥棒をさせる「猫ばば」など、さまざまに魅力的な魔物が登場する。とくべつなメガネを通じて、いさなたちも見ることのできる魔物。日常でもついつい、レンズ越しで探してしまいそうである。

文=立花もも