自分の人生と重ねて読まずにはいられない! 青山美智子さんの『お探し物は図書室まで』――町のコミュニティセンターで、司書との出会いがもたらすものとは?

文芸・カルチャー

公開日:2020/11/28

お探し物は図書室まで
『お探し物は図書室まで』(青山美智子/ポプラ社)

「何をお探し?」と問いかける、不思議に安定感のある声の主の風貌は、首と顎に境目がなく、穴で冬ごもりしている熊のよう。ひっつめた髪のてっぺんには、かんざしを挿したお団子が載っている。それが小町さゆりさん。『お探し物は図書室まで』(青山美智子/ポプラ社)に登場する司書だ。

 彼女が働いているのは、町のコミュニティセンターの一角にある、教室ほどの大きさの図書室。訪れる人たちはみんな、最初から本を探しているわけではない。ふらりと彷徨いこんだその場所で、小町さんから薦められた本を通じて、年齢も性別も職業もバラバラな5人の語り手たちが自分自身と対話し、内省し、一歩を踏み出していく過程が読んでいてとても心地がいい。それはたぶん、本を読むこと、ではなくて、他者の言葉に耳を傾けることの大切さが描かれているからじゃないかと思う。

 たとえば総合スーパーの婦人服売り場で働いている21歳の朋香。すごくやりたいことや楽しいことがあるわけでもなく、恋人もおらず、このままなんとなく老いていくことに不安を抱いている彼女は、だからといってとくべつ努力をするわけではない。自分にはない何かをもっているような気がする人に「すごい」と言うのが口癖になっていることに、同僚・桐山くんの指摘で気づき、教えてもらったコミュニティセンターのパソコン教室に通うことを決める。

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 そうして出会った図書室で、朋香は『ぐりとぐら』の絵本を借り、小町さんから本の付録として羊毛フェルトのフライパンをもらう。なぜ羊毛フェルト? なぜフライパン? というのは本書を読んでいただくことにして。絵本をきっかけに朋香の停滞していた日々は、ほんのわずかに動き出す。……ように見えるけれど、実は変わり始めていたのはその少し前から。

「コミュニティセンターに行けばいいじゃん」という桐山くんの言葉を聞いてみずから動き、「何が起きるかわからない世の中で、今の自分にできることを今やっているんだ」という彼の言葉に、ただすごいと羨むのではなく、その背景にあるものを推しはかり、苦手だったパートの女性のすごいところを、ちゃんと見倣ってみることにした。他人の言葉をないがしろにすることをやめていた彼女だから、『ぐりとぐら』のたわいない物語にも、日常をよい方向へ動かしていくヒントを見つけられたのである。

 残り4人の語り手たちも同じ。みなそれぞれ「なんでこの本?」と思うような一冊を、「自分とは関係ないや」と放り出すことはせず、そこに綴られた言葉を自分なりに解釈して汲みとっていく。同時に、周囲にいる人たちの言葉に、はっとさせられたり落ち込んだりしながら、自分を見つめ直していく。

 彼らを通じて描かれるのは、誰かの言葉を自分を生かす力に変えて、前に進むことの大切さだ。人生は、一足飛びに逆転したりすごいものになったりはしない。だけど少しずつ軌道修正を重ねていくことで、きっと自分が探していた何かに通じる道を見つけられるはず。作者・青山美智子さんの綴る言葉に耳を傾けていると、そんな勇気がふつふつと湧いてくるのである。

文=立花もも

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