韓国ドラマ『スタートアップ:夢の扉』韓国のシリコンバレーで成功を夢見る若者たち。ドラマの本当の見どころとは?

エンタメ

更新日:2020/12/20

スタートアップ:夢の扉
Netflixオリジナルシリーズ『スタートアップ: 夢の扉』独占配信中

 ITベンチャー? スタートアップ? 投資? AI? ストックオプション? なにそれ。っていう人にこそ、このドラマを観てほしい。ついに完結した韓国ドラマ『スタートアップ:夢の扉』。さすがSTUDIO DRAGON制作、tvN放送の黄金タッグ(『愛の不時着』も『青春の記録』もそう)という快作だった。時代を捉えた舞台設定、コメディとシリアスの絶妙なバランス、そして単なるラブコメで終わらない濃密な人間ドラマ。主人公の恋の行方にドキドキ、夢をもって起業した若者たちに襲いかかる問題の数々にヒヤヒヤ、そして韓国ドラマ名物である嫌味で偉そうで器の小さな悪役キャラ(だいたい大企業とか財閥関連)にイライラ……最終回まで次の回を待ち望みながら過ごしていた。もう1回(いや、2、3回)まとめて見返そうと思っているが、同じように年末年始にイッキ見したいという人に向けて、このドラマのどこがいちばんグッと来るのかを紹介したい(できるだけネタバレなしで)。

 父親を早くに亡くし、祖母とふたりで暮らしてきたソ・ダルミ(ぺ・スジ)、子どもの頃に数学オリンピックで優勝し、プログラマーの道を進んだナム・ドサン(ナム・ジュヒョク)、ダルミの祖母の頼みで、新聞でたまたま見つけたドサンの名前でダルミと文通をしていたベンチャーキャピタルのリーダー、ハン・ジピョン(キム・ソンホ)。その3人の恋愛関係を軸に、ITベンチャー企業の苦労や成長を描くのがこの『スタートアップ:夢の扉』だ。主人公たちが生み出す、AIを駆使した自動運転技術とか音声アシスタントを拡張した視覚障害者向けのサービスとか、現実にも登場しそうなテクノロジーもおもしろいし、実際に起業した若い会社(スタートアップ)がどのように成長していくのかをつぶさに追いかけていくという点でもすごくリアルなビジネスドラマなのだが、筆者がいちばん感動したポイントはそこではない。

スタートアップ:夢の扉
Netflixオリジナルシリーズ『スタートアップ: 夢の扉』独占配信中

 プログラマーとしてはきわめて優秀ながらもコミュニケーションやビジネスは苦手でくすぶり続けていたドサン、投資家の資金を預かる身としてスタートアップの若者たちに厳しい態度を取り続けるジピョン、そして数多くの仕事を転々としてきたことでさまざまなスキルやコミュニケーション能力を持ちながらも、同時に姉に対するコンプレックスを断ち切れないダルミ。その3人の真ん中にいるダルミの祖母ウォンドク、ドサンと起業したプログラマー仲間で親友のヨンサンとチョルサン、さらにはダルミやドサンの家族……多彩なキャラクターが織りなす濃厚な人間ドラマは、ITやベンチャーといったちょっと小難しそうなテーマを無視したとしても充分に魅力的なのである。

advertisement
スタートアップ:夢の扉
Netflixオリジナルシリーズ『スタートアップ: 夢の扉』独占配信中

 孫を思って祖母が仕掛けたひとつの「嘘」、そしてその嘘に加担した少年時代のジピョンと、そこに勝手に名前を使われただけでその嘘の当事者になってしまうドサン、そして姉や母親に見栄を張ってこちらも嘘をついてしまうダルミ。それぞれがそれぞれの秘密を抱えながら出会い、ともに仕事をしていく。そんなスリリングな序盤の展開から、後半に進むにつれてドラマは登場人物それぞれの人間的な成長、あるいは再生にフォーカスを当てていく。

 ドサンはコンプレックスとジピョンへの対抗意識からダルミへの想いに素直になれずにいた。一方ダルミはCEOとしてドサンたちと会社を立ち上げたものの、自身の経験や資質に対してどうしても自信が持てないでいた。そしてジピョンは、昔ダルミの祖母に受けた恩を返せていないことに後ろめたさを感じてダルミを見守り続けるのだが、そのうちに彼女への恋心に気づいて戸惑う。「嘘」を起点に一瞬交わりながらもそれぞれの人生を歩んできた3人が、ゼロから新たなビジネスを生み出していくなかで、自信を身に付け、過去と向き合い、新たな未来へと進んでいく。その様子がとてもすがすがしい。最初のほう、ドサンの人と目を合わせない自信のなさそうな態度は観ているとこっちがじれったくなるし、ジピョンの横柄で偉そうな態度にはイラッとするのだが、そんな彼らを観ているうちに、いつの間にかそれぞれを応援したくなっている自分に気づく。

スタートアップ:夢の扉
Netflixオリジナルシリーズ『スタートアップ: 夢の扉』独占配信中

 ヨンサンの暗い過去や、チョルサンとデザイナーとして彼らの会社にジョインした元弁護士でモデルで絵に描いたようなツンデレキャラ、サハとの恋模様、ダルミの姉インジェと家族の確執など、それぞれでスピンオフドラマが1本作れるんじゃないのというくらい濃いのだが、その何重にも折り重なった物語を読み解くためにも、あと3周くらいしてしまいそうな予感がしている。『スタートアップ:夢の扉』、傑作です、ぜひ。

文=小川智宏

Netflix公式サイト

この記事で紹介した書籍ほか

韓国TVドラマガイド(92) (双葉社スーパームック)

出版社:
双葉社
発売日:
ISBN:
9784575458657

韓流旋風 vol.93 11月号

出版社:
株式会社コスミック出版
発売日:
ISBN:
4910075791108