この学校には何かがいる――Netflixの実写ドラマも大人気の韓国文学『保健室のアン・ウニョン先生』

文芸・カルチャー

更新日:2021/2/28

『保健室のアン・ウニョン先生』(チョン・セラン:著、斎藤真理子:訳/亜紀書房)
『保健室のアン・ウニョン先生』(チョン・セラン:著、斎藤真理子:訳/亜紀書房)

 この小説には、底知れない面白さがある。『保健室のアン・ウニョン先生』(チョン・セラン:著、斎藤真理子:訳/亜紀書房)は、そんな感想を抱いた韓国文学。本作はNetflixで配信され、大人気となっている韓国ドラマ『保健教師アン・ウニョン』の原作。

 次々と不可思議なことが起きるストーリー展開なのだが、ファンタジー小説だと一言で片づけられない魅力がある。

advertisement

養護教諭がBB弾の銃とレインボーカラーの剣でバトル!

 アン・ウニョンには、人には理解されにくい特別な能力があった。それは死者や生者が放っている微細で、まだ立証されていない粒子の凝集体が見えること。

 一種のエクトプラズムであるその凝集体は、ゼリー状。種類や生成時期によって粘性が異なり、死者よりも生者のもののほうがべたべたとしていてやっかいであることも…。これらと闘うため、ウニョンはバッグにいつもBB弾の銃とレインボーカラーの剣を装備している。

 そんなウニョンが養護教諭として赴任したのは、生徒の飛び降り自殺が続出している私立M高校。この学校には何かがいる――。出勤初日からそう感じていたウニョンは何か秘密がありそうな地下室へ。そこに渦巻く、邪念や競争心、羞恥の残滓などの汚い「ぐにゃぐにゃ」と闘っているところを同僚の漢文教師ホン・インピョに見られてしまった。

 不可解な行動をするウニョンをインピョが怪しんだため、2人は共に地下室の奥へ進むことに。やがて地下3階に辿りついた2人が目にしたのは、「圧池石」という文字が彫られた石碑。それをインピョが裏返した途端、校内で異変が。なんと、一部の生徒が次々と倒れ、起き上がった途端に屋上へ駆けあがり、集団自殺を試みるという不可解な現象が起きてしまった。

 それを目にしたウニョンは生徒たちを守るため、銃と剣にエネルギーを注ぎこみ、自分にしか見えない敵と闘う――。

 本作には、こうしたウニョンの事件簿が10編も収録されており、インピョとの不思議な関係性にもハラハラ・ドキドキさせられる。インピョはウニョンのように特殊能力を持っているわけではないが、巨大なエネルギーの保護膜に守られている。そのため、ウニョンにとってインピョはただの同僚から、触れることでエネルギーを得たり、回復したりできる大切な相棒へと変わっていくのだ。友人や恋人ではない2人の強い絆は、読者の目にユニークに映るだろう。

 こうしたストーリー設定を知ると、ファンタジー小説だと感じる人も多いかもしれないが、本作にはホロっと泣けて自分の生き方を考えさせられるエピソードも含まれており、「ファンタジー」以外の要素も読みごたえ十分。

 中でもグっときたのが、ウニョンのもとに死んだ旧友が会いに来る話。ウニョンは強くてたくましい女性なのだが、その性格がどう作り上げられていったのかうかがえるこのエピソードでは心の育て方が学べ、泣かされもした。

 社会人はもちろん、多感な学生の心に刺さる描写も多い本作。ちょっぴり勇気が欲しい時のお守りにもなる。ぜひ、原因不明の怪奇現象に驚きながら、学校に隠された秘密をウニョンやインピョと共に解き明かしてみてほしい。

文=古川諭香

あわせて読みたい