震災の5日後に動き出した三陸鉄道がつないだ人々の想い。絵本で子どもたちに語り継ぐ「さんてつ」の物語

文芸・カルチャー

公開日:2021/3/5

リアスのうみべ さんてつがゆく

著:
イラスト:
出版社:
岩崎書店
発売日:
リアスのうみべ さんてつがゆく
『リアスのうみべ さんてつがゆく』(宇部京子:作、さいとうゆきこ:絵/岩崎書店)

「もう、おわりかと おもった。そんなときだったよ。ポーポーポーポー けいてきの おとが きこえてきたんだ。うそだべ、ど おもった」

 岩手県野田村の方言でそう綴られるのは、東日本大震災から10年目を迎えた今年の2月に刊行された絵本『リアスのうみべ さんてつがゆく』(宇部京子:作、さいとうゆきこ:絵/岩崎書店)です。

「さんてつ」の愛称で地元の人たちに愛される三陸鉄道は、震災で多くの被害を受けた三陸沿岸を走る鉄道。さんてつは震災のわずか5日後、隣町の線路が壊れているような状態のなかで動き出しました。

こんな時だからこそ走るんだ!!

 さんてつが動き出すまでには、夜も寝ないで点検を重ねた人たちの苦労がありました。人々がそこまでしてさんてつを動かしたのは、「こんな時だからこそ走るんだ!!」という揺らぐことのない気持ちがあったからだといいます。本書には、津波に流されて何もなくなってしまった町で、力強く警笛をあげて走るさんてつの姿が描かれています。

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たくさんの人たちを運んでくれたさんてつ

 さんてつは、震災後わずか5日目に動き出したことで、被害を受けた人たちを支援する人たちをたくさん運んでくれました。誰に頼まれたわけでもなく「助けなきゃ!」という気持ちに駆られてやってきた人たちの表情には、強い決心が表れていて、人の気持ちとはこんなにも心を動かすものなのかと実感させられます。

 その行動はもちろん、気持ちを向けられただけでも、被災地の人たちはどんなに救われただろうかと想像できました。

おたがいさま。がんばるべし!

 地元の人たちも、絶望のなかにありながら、誘い合ってさんてつに乗りました。さんてつの中で揺られながら、みんなの気持ちがほぐれて、「たすかって、よかったなあ」と声をかけ合い、いつの間にか笑っていた様子が描かれています。

「おたがいさまです。がんばるべし!」と車掌さんがお客さんにかけた言葉は、さんてつが地元の人たちに向ける想いそのものです。

「おわりだ」という絶望とは誰もが隣り合わせ

 まだ雪が降る寒くて何もない場所で、被災地の人たちはどんなに心細い気持ちでいたのでしょうか。そんな時に聞こえてきた「ポーポー」というさんてつの警笛にどれだけ心が救われたでしょうか。

 この2月にも福島県沖を震源とする大きな地震がありました。災害はいつどこにやってきてもおかしくありません。「もう、おわりかと おもった」。この絵本に描かれた被災地の人たちの絶望感は、誰しも経験しうる気持ちなのだということを、決して忘れてはならないと思います。

ひとりじゃない! さんてつがつないだ人々の想い

 野田村出身で久慈市在住の詩人・宇部京子さんと盛岡市在住のイラストレーター・さいとうゆきこさんによって描かれたこの絵本には、被災地で実際に広がっていた風景や、当時の人々の気持ちがくっきりと描かれています。

 そこには、被災地の人たちの想像を絶する寂しさや、人とふれあえた時の温かさ、そして傷ついた人たちをなんとか救おうとする人たちの力強い気持ちが手に取るように感じられ、その一つひとつに涙せずにはいられませんでした。

 しかし、この絵本が伝えてくれるのは、悲しいだけではない「復興」です。震災の現実を伝えながらも、災害を受けても復興することの大切さと、復興には人々のつながりが不可欠であることを教えてくれます。負けてはいけない気持ち、あきらめてはいけない気持ちを、さんてつが伝えてくれるのです。

 さんてつは今でも「ポーポー」という警笛をあげながら「なくな! つながれ! じもと!」と叫び、ひとりではないことを地元の人たちに伝え、励ましています。さんてつが教えてくれたことをつなげていけば、大切な命と子どもたちの未来を守りながら、新しい世界を作っていけるのです。

新しい命に語り継いでいく

 2月17日には、三陸鉄道の本社で、本書を地元の保育園の子どもたちに届ける贈呈式が行われたそうです。震災後に生まれ、近しい間柄の人たちが被害にあったかもしれない子どもたちの心に、この絵本はどう届くのでしょうか。私たちもまた、大切な命をつないでいく立場として、新しい命に震災のことを語り継いでいくことは、もはや使命といえるのではないでしょうか。

 まずは、本書を子どもに読み聞かせるところから始めてみたいと思います。涙しながら読む親に、子どもは「どうして泣いているの?」と聞いてくるかもしれませんね。難しいことは伝えられないかもしれないけれど、ここに描かれていることだけでも子どもに伝えたい。それだけでも十分なのかなと感じています。

文=麻布たぬ

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著:
イラスト:
出版社:
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発売日:
ISBN:
9784265830923