『パラサイト 半地下の家族』で映画の歴史を塗り替えた、ポン・ジュノって何者?

マンガ

公開日:2021/3/18

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『マンガでわかるポン・ジュノ』(ストーリーボックス:著、チェ・ウビン:イラスト/飛鳥新社)

 2019年にカンヌ映画祭の最高賞・パルムドールを、ついでアカデミー賞では英語以外の言語の作品では史上初となる作品賞を受賞した韓国映画『パラサイト 半地下の家族』。2020年7月に本作のレンタルが開始され、TSUTAYAでは2010年以降にアカデミー賞作品賞を受賞した作品の中で、店舗レンタル数の初日実績における1位に選出。2021年1月には「金曜ロードSHOW!」(日テレ系)にて地上波で放送され話題になりました。

 『マンガでわかるポン・ジュノ』(ストーリーボックス:著、チェ・ウビン:イラスト/飛鳥新社)は、ポン・ジュノの映画監督としての人となりを知るだけでなく、ついでに自分の「好き」を突き詰める勇気までもらえる一冊です。

 ポン・ジュノは1969年生まれ、デビュー長編『ほえる犬は噛まない』(00)、『殺人の追憶』(03)、『グエムル-漢江の怪物-』(06)と着実にキャリアを重ね、日本でもオムニバス映画『TOKYO!』(08)の一編を蒼井優と香川照之を主演に迎えて監督。ハリウッドに進出し『スノーピアサー』(13)やNetflixオリジナルドラマ『オクジャ okja』を監督し、『パラサイト 半地下の家族』(19)で前述の快挙を成し遂げました。

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 本書はそんな彼の業績をただ称えあげるだけではなく、栄冠に至ったプロセスに焦点をあて、マンガで見やすくわかりやすくポン・ジュノの人物像に迫っています。

 好きなことに没頭した幼年期、批評と興行の不一致に悩まされたデビュー期、葛藤を乗り越えて大きく成長した第2作『殺人の追憶』制作期、そしてどんどんステップアップしていく第3作以降。このような成長過程が、ポン・ジュノよりも二回りほど年下のキャラクター・トトの成長とあわせて、マンガによって描かれます。ポン・ジュノがトトに映画演出や用語の基本を教えることによって、専門知識がない読者でも容易に読み進めることができるという構成です。

 「ポンテール」と呼ばれるポン・ジュノの徹底したこだわりは、映画以外の仕事にも洞察を与えてくれます。ポン・ジュノの「ポン」とディテール(「詳細・微細な」を意味する英単語 detail)の「テール」をつなぎあわせた造語ですが、映画監督は映像に映るあらゆる物事にジャッジをしなければなりません。服が何色で、持ち物は何で、食事メニューが何で、食器にどういう盛り付けがされていて、登場人物がどんな食べ方をして……といった具合に、決めることは何百、何千とあります。華やかに見えるポン・ジュノの業績は、そうした地道なプロセスの積み重ねや、ひとつひとつの悩みや苦境に臆せず向き合っていることから生み出されているのです。

ポン・ジュノとて、決して早熟の天才として飛び級のような特別待遇を得たわけではない。懸命な努力と小さな達成をコツコツ積み重ねていくことで、ようやく「好き」を仕事にする道をつかんだのです。(※映画評論家・森直人氏のあとがきより)

 偉人でありながらも等身大なポン・ジュノのライフヒストリーは、多くのビジネスパーソンにヒントを与えてくれます。そのひとつは、大人でも理想論を語ってもよいのだということです。目先の仕事や忙しさに追われながらも何か理想を持ち続けなければ、次の時代・世代に対して何も残さないまま時間のみが過ぎ去っていってしまう。そんな教えを「時の人」から学べる一冊となっています。

文=神保慶政