病理医ってどんな医者? そもそも病理ってなに? 現役病理医が綴る新感覚エッセイが登場!

文芸・カルチャー

公開日:2021/4/14

ヤンデル先生のようこそ! 病理医の日常へ
『ヤンデル先生のようこそ! 病理医の日常へ』(市原真/清流出版)

「さっき取ったやつ、病理にまわしておいて」
「病理の結果、出てるから見といて」

 僕が看護師として働いていたとき、ナースステーションで医師からよく聞いていた言葉だ。業種は違えども、同じ医療従事者たるもの「病理」が何を示しているかくらいはわかっていたつもりだ。ただ僕は、病理検査をおこなう「病理医」や「病理そのもの」について詳しくは知らなかった。知っていたのは、彼らが臨床の現場にほぼ顔を出さないということくらいである。

『ヤンデル先生のようこそ! 病理医の日常へ』(市原真/清流出版)は、そんな病理医の仕事や世界を知るのにうってつけの1冊。本書を読むと、病理医のことや現代医療における病理の役割がわかるようになっている。

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 本書はまず「病理医の仕事の流れ」が紹介される。一般的な病理医は出勤したら最初に何をするのか。どのような流れで業務が下りてきて、1日にどれくらいの量をこなすのか。それぞれの業務にどれくらいの時間がかかるのか。終業時間は何時までで、当直や残業はあるかなど、病理医を理解するための基盤となる内容が盛りだくさんだ。

 専門的な分野をテーマにした書籍というのは、往々にして専門用語や定義がつらつらと並べられており、理解が難しい。こと医療の分野においては、その傾向がより強いと感じる。ただ本書には、その難しさは感じられない。病理医の仕事についてまったく知らない人でもきっと読みやすく、理解しやすいだろう。

 そしてその上で語られるのが「医療における病理医の役割について」だ。きっと本書が気になる人の多くは「そもそも病理医って何のためにいるの?」「いつもお世話になる医者と何が違うの?」といった疑問を持っているはず。作中では、そんな疑問にも詳しく触れられている。

 語られる内容の一部を紹介する。

 そもそも、僕たちが風邪を引いたときにお世話になるのは、医師の中でも「臨床医」と呼ばれる人たちだ。彼らは実際に患者と話し、必要に応じて採血や検査をおこない、その結果からどんな病気なのかを判断する。ただ、中には臨床医でも診断がつけづらいケースも存在する。作中ではそれをグレーゾーンと呼んでいる。人命に関わるため「なんとなく」という理由では診断できないし、決して許されない。そんなとき、臨床医が助言を求める存在が、病理医なのだそうだ。

 なぜ病理医は、このタイミングで臨床医から助言を求められるのか。この答えこそが病理医の役割の根幹をなす部分であり、医療における病理医の重要性や臨床医との違いを理解するヒントになる。

 作中では他にも、「病理医から見た生老病死(しょうろうびょうし)について」や、「コロナ禍で変わってしまった日本の『生』」、「市原先生の病理への思い」について語られている。それぞれ、臨床医とは異なる視点で書かれているため、テーマに既視感はあっても内容は新鮮に感じるはずだ。

文=トヤカン