発達障害のある妻とモラハラ夫。傷つけ合いながらも、ふたりが見出した道のり

暮らし

公開日:2021/5/20

発達系女子とモラハラ男 傷つけ合うふたりの処方箋
『発達系女子とモラハラ男 傷つけ合うふたりの処方箋』(鈴木大介:著、いのうえさきこ:漫画/晶文社)

 お互い好きになったから一緒にいる。それなのに、うまくいかない。誰でも一度はそんな経験をしたことがあるのではないだろうか。

『発達系女子とモラハラ男 傷つけ合うふたりの処方箋』(鈴木大介:著、いのうえさきこ:漫画/晶文社)の著者・鈴木大介さんの妻は、発達障害特性を持つ「発達系女子」だ。鈴木さんは仕事と家事をひとりでしている。だんだんとそんな生活に疲れ、お互いにとってつらい言葉を妻に投げかけるようになった。するとあるとき、彼は脳梗塞を起こし、「高次脳機能障害」になる。

 鈴木さんは購買で店員に言われた金額をすぐに忘れたり、注意障害で不必要な情報が脳に入り大事な情報を失ったりする。すべて今まではなかったことだ。苦しみながら彼は、自分の妻がどれほど大変な思いをして生きてきたのか、実体験によって理解するようになる。

advertisement

 落ち込む鈴木さんに、妻は言う。

“頑張ってなんとかなるものを障害とは言わないでしょ?”

 発達障害特性のある人たちは、「やらない」ではなく「できない」のだ。その事実に気づき、鈴木さんは愕然とする。

 鈴木さんの文章と、いのうえさきこさんの漫画によって、わかりやすくそういった困難を抱える人たちと生きるための工夫が解説される。

 鈴木さんは妻と長い間一緒にいた。それでもわかりえなかったことが、当事者になってわかるようになった。

 ただし鈴木さんは、個人が抱える苦しみや苦手なものを“知識として知る”よりも大事なことがあると述べる。

“最も必要なのは、「できないこと」の背後に、どんな「苦手(障害特性)」があるか、それがどんな基礎特性が絡んで起きていることなのかについて思いを馳せる、想像力や着眼力を養うことです。”

 例えば、書籍などでよく取り上げられる、ADHDの特徴「片づけられない」。床に散らばっている物が多いことは、即ち情報量が多いことと同じだ。鈴木さんは退院後、散らかった部屋を片づけるのに非常に時間がかかり、妻のこれまでの苦労を知った。

 想像力や着眼点を養った鈴木さんは、ひとつひとつかみ砕き、夫婦双方が生きやすくなるためにどうすれば良いか解決策を見つけていく。

 一緒にいるのに、ふたりとも生きるのが苦しい。周囲を見渡してみれば、そんな苦しさを抱えている人は少なくないだろう。本作はきっと、その苦しさを軽減させる一助になるはずだ。

文=若林理央