方向音痴は、なおるのか? 教わって、歩いて、迷って、考える、試行錯誤の軌跡

暮らし

公開日:2021/5/16

『方向音痴って、なおるんですか?
『方向音痴って、なおるんですか?』(吉玉サキ/交通新聞社)

「私、方向音痴なんです」

 そう明かす人は案外多い。話を聞いてみると「地図を見てもさっぱりわからない」「駐車場で自分の車が見つけられない」「居酒屋でトイレに行ったら席に戻れなくなる」など、嘆きや困った経験談が次々とあふれ出てくる。

 ライター・エッセイストの吉玉サキ氏もその一人だ。「グーグルマップで徒歩10分と表示された場所には30分、大事な用事のときは50分を見積もって出発する」という習慣にも、散々迷子になって苦労してきた過去がにじみ出る。さらに「角を曲がるたびに目的地が動くように感じて混乱する」という重症っぷりだ。

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 そんな吉玉氏の悩みは、迷子そのものではなく、迷うことを恐れて知らない街に足が向かなくなってしまうことだという。そこで、現状を少しでも改善して「好奇心の赴くままに街歩きできるようになりたい」という目標を掲げ、方向音痴の克服を目指す体当たり企画に挑んだ。その試行錯誤の軌跡を綴ったのが『方向音痴って、なおるんですか?』(吉玉サキ/交通新聞社)である。

 本書では、まず吉玉氏が実際に街を歩きまわって問題点をあぶり出す。吉玉氏の場合は、「手元の地図やアプリに表示された内容と実際の風景とを照らし合わせること」に時間がかかり、「最初の一歩をどっちに踏み出せばいいかの判断」に一苦労。さらに、「マップアプリのナビ機能を使用すると、GPSのわずかなずれや遅れにも惑わされてしまうことが多い」とわかる。

 そこでまず助けを求めたのが、認知科学を専門とする新垣紀子教授。現状を訴えつつ教授からの質問に答えていくと、吉玉氏は「道のりをすべて言語化して覚えているため、上から見た配置を図のイメージで理解するのが苦手」と判明。ここで、教授が尋ねたことがおもしろい。「ご自宅の間取り図は描けますか?」。戸惑いつつも自宅の間取り図を描き上げた吉玉氏を見て「街も同じですよ」と教授は話す。向かい合っている相手からの見え方を想像するのと同じ要領で、上から見た街を描き、範囲を広げていくイメージというわけだ。

 ほかにも、空想地図作家の今和泉隆行氏や東京スリバチ学会会長・皆川典久氏、地図研究家・今尾恵介氏と、地図や地形に造詣の深い“達人”たちが登場。方向音痴のことだけでなく、どのような視点で街を見ているのか、何に注目すると楽しいのかを学んでゆく。そうして、はじめは「迷わないこと」だけに全力を注いでいた吉玉氏が、教わったコツを活かしつつ、少しずつ街の全体像にも目を向けるようになるのだ。

 また、本書にはマップアプリの使い比べや、「寄り道コラム」として思い出を語るショートエッセイも数編挿入、くすっと笑える部分もある。決定的な解決策が提示されているわけではないが、方向音痴本人の目線で感じたり考えたりすることが正直に綴られているのが何より貴重ではないだろうか。方向音痴ではないという人も、そのしくみや見え方を垣間見るのは興味深いはず。

 笑い話になりがちだが、実は謎が多いテーマでもある「方向音痴」。本書の著者のように、方向感覚や地図の読み方を意識しながら歩いてみると、新たな発見があるかもしれない。