これまでの「当たり前」は時代遅れ。精神疾患、LGBT……マイノリティでも生きていける

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更新日:2021/6/9

 躁うつ病やパニック障害を患い、自分の生きる道を模索し続けたケチャップ氏。2020年2月からTikTokの動画投稿を始めたことが功を奏し、自宅で動画を作る日々が精神を安定させ、そして今ではフォロワー210万人(2021年6月現在)を持つ大人気TikTokクリエイターとなった。

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 このほど、これまでの日々を綴った自伝的エッセイ『一人だけど孤独じゃない 中二病クリエイター、世界でバズる』(KADOKAWA)が出版された。本書は、自分を他人にわかってもらえないマイノリティのつらさ、同じ悩みを持つ人々への勇気の言葉、何より、そうした生きづらさを作り出す日本社会への素直な疑問で溢れている。

 これまでの当たり前は、今の当たり前ではない。自分が精神疾患を患っていたり、LGBTであったり、あるいはジェンダー論を表明する著名人が増えているが、ケチャップ氏もその一人。いつかはマイノリティ・マジョリティといった概念がなくなり、「一人一人が違った個性を持つ」という感覚が当たり前になる未来が来る。その足掛かりとなる一冊がこれだ。

※本稿はケチャップ著『一人だけど孤独じゃない 中二病クリエイター、世界でバズる』(KADOKAWA)を再編集したものです。

一人だけど孤独じゃない 中二病クリエイター、世界でバズる
『一人だけど孤独じゃない 中二病クリエイター、世界でバズる』(ケチャップ/KADOKAWA)

「普通」を疑うことで生きやすい未来は生まれる

 TikTokの世界だけにいる、本来の自分とは違うケチャップというキャラクター。そもそも私がケチャップと名乗るようになったのは、驚くほど単純な理由だった。それは、『どうぶつの森』(任天堂)というゲームの中で、トマトのアヒルみたいな「ケチャップ」というキャラクターが一番好きだったから。

 ゲームの中ですごく優しくしてくれて、「マイペースでいいんだよ」とか、「いつもお疲れ様」とか、そんな言葉にときに泣かされ、ときに励まされ、元気をもらって、ずっとケチャップと一緒に生きていきたいという思いが芽生えた。

 そして、私もケチャップのように、誰かを励ましたい、誰かにとっていつも優しい存在でありたいと願い、TikTokを始めるときにケチャップという名前をもらった。

 ただ、今はケチャップという名前に別の思いも込めている。それは、ファンから受けた「ケチャップなのに青いんですね」というコメントがきっかけだった。

 そのコメントを見たとき、私はなぜか違和感を覚えた。

「ケチャップは赤でなければならない」
「ケチャップなのに青いのは変だ」

 そうした「普通」を当たり前のように突きつけてくることが、なぜか許せなかった。

 確かに、実際のケチャップは赤いけど、赤じゃなければいけないなんて誰が決めたんだ。青いケチャップがあっても別にいいじゃないか。

 そう考えると、私は昔から「普通」を押し付けてくる社会に対する反骨心のようなものを抱いていたことに気づいた。

口先だけの「多様性」なんかいらない

 例えば、高校生のころ、クラスメイトとは全然違う個性的な服を着て目立っていたとき。家では家族とかを笑わせていたのに、母親が私のことを「人見知りで内気な子」と紹介したとき。TikTokを始めてから、「主婦なのになんでTikTokなんてやっているんだ」と言われたとき。

 なんでみんな「普通」を求め、本人の意思を無視して「決めつけ」をしてくるんだろう。

 自分が青いと思ったらケチャップだって青で構わない。ほかの人と違っても自分の好きな服装に身を包みたい。自分は内気で人見知りではなく、もっと人を笑わせ、元気にしたい。主婦だってかっこいいTikTokの動画が作れる。社会から突きつけられる「普通」に反抗し、自分の思うように自分らしく生きる。

一人だけど孤独じゃない 中二病クリエイター、世界でバズる

 今、世の中では「多様性」を認める風潮が広がっている。けれど、TikTokを始めて、それはまやかしだと気づいた。青いケチャップとして1年以上活動しているけど、いまだに「なんで青いの?」という質問は絶えないし、その人の「普通」を平気で突きつけてくる。

 確かに、人それぞれに「普通」があり、初めて私のファッションやメイクを目にした人の中には、驚いたり、怖がったりする人もいると思う。自分の思いとは異なる意見を抱いている人がたくさんいるのもわかるし、むしろ、そのような人の方が多いこともわかっている。

 ただ、だからといって、物事を否定的な目で見るのはやめてほしい。まずは自分とは違う相手の存在を認め、肯定的な目を持って接することで、きっと反発からでは生まれない関係性も築けると思う。

ケチャップ
TikTokで210万人を超えるフォロワーを持つトランジション系クリエイター。過去に躁うつ病・パニック障害・自律神経失調症を患った経験から、自分らしさ・個性を発信していくことの重要性を実感し、2020年2月よりTikTokでの動画撮影を開始。その唯一無二の世界観から多くのユーザーの支持を得ている。2021年3月、自身初のD2Cアパレルブランド「ケチャップマニア」の販売を開始。